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石田衣良「娼年」あらすじとネタバレ感想!小説の結末は?【映画原作】

石田衣良「娼年」を読みました!

今回は小説「娼年」のネタバレ(と感想)をまるっとお届けします!

あらすじネタバレ

森中領(20)は退屈を持て余している大学生。

ある日、友人の田島進也の紹介で、領は御堂静香と出会う。

静香は領の母親ほどの年齢の女性だが、その佇まいは若々しく美しい。

さして女性に興味がないという領に、静香は落ち着いた声で言った。

「わたしがあなたに値段をつけてあげる。リョウくんは自分の価値を知りたくない?」

「いいですよ。買ってください。どうせ今夜も帰って寝るだけだ。退屈なのは同じです」

要するに、静香は若い男を金で買っては夜の遊びを楽しんでいるのだ。

領はやはりどうでもいいという気持ちで静香に買われることにした。

…だが、領はすぐに自分が思い違いをしていたと気づくことになる。

静香の寝室へ行き、いざ始めようとした領を制して静香は言った。

「あなたの相手をするのは、わたしじゃなく、この子」

領にあてがわれたのは咲良という耳の聞こえない少女。

「あなたを試してごらんなさい。わたしはここで見ている」

戸惑いは一瞬だけだった。領はどうしたものかと考えながら咲良に触れ、そして瞬く間にその身体に溺れていった。

…。

行為が終わると、静香は領に5千円の値をつけ「不合格だ」と告げた。

だが、そこに咲良がもう5千円を足す。

「そう。あなたがそういうならわかった。ぎりぎりで合格。すべて咲良のおかげね」

「いったい何の試験に合格したんですか」

「情熱の試験に合格したのよ。あなた、うちのクラブで働いてみる気はある?」

 

『Le Club Passion』

静香が経営するクラブは女性客に男の子を紹介する会員制ボーイズクラブなのだという。

その最低料金は1時間で1万円。領はその基準にぎりぎり合格したというわけだ。

アルバイトとしては破格の待遇だが、領は金には興味がない。

それよりも、領は自分の中に横たわる退屈から抜け出すことができるのではないかと期待した。

「リョウくん、あなたは女性をもっと信じなさい。あなたがつまらないと見下しているものは、もっと素晴らしいものよ。もちろんがっかりすることもあるでしょう。だけど、あなたは決して理解できずに、それでも一生愛するしかないもののまえにいる。この世界で生きてる限り、女性から逃げきることはできない」

その夜、領はクラブで働くことを心に決めた。

(あのクラブで「情熱」を探そう。もしかしたらそれで、居心地よく退屈な二十歳の檻を破れるかもしれない)

 


 

初めての客である30代のヒロミとは2回目のデートで抱き合った。

最年少のマリコ(23)はいつもくたびれた中年の男をどこからか拾ってきては、3人での行為を楽しんでいた。

40代のイツキは知的な大人の女性だったが、特殊な欲望の持ち主だった。

欲望のカタチは人それぞれであり、無限だ。

その夏、領は娼夫として多種多様な女性たちと交わった。

年齢なら20代から70代まで。体重なら領の半分しかしない女性から1.5倍ほどもある女性まで。

女性の欲望を受け入れ、彼女たちを喜ばせることに、領はやりがいを感じるようになっていく。

(ぼくは娼夫になり、より自由になった)

娼夫の仕事は単に彼女たちの相手をすることではない。

彼女たちが普段は秘めている欲望(心)のカタチと向き合い、その器を満たすことこそがコールボーイの本分なのだ。

客たちの間で領の評判はうなぎのぼりに上がっていき、やがて領はVIP専用の特別な娼夫に昇格した。

 


 

ある日、同じゼミの同級生である白崎恵が領を訪ねてきた。

どうやら領がコールボーイをやっていることを聞きつけてきたらしい。

「…自分の身体をおばさんたちに売っているんでしょう。お金のためでしょう。リョウくん、汚いよ」

領は恵が自分に好意を抱いていることに気づいていた。そのうえで知らないふりをしていたのだ。

領が黙っていると、恵は再び口を開いた。

「金で自分の欲望だけ満たす女とつきあっていたら、リョウくんだってきっと薄汚れていくよ。今は若いし楽しいからいいかもしれない。でも、その仕事を一生続けるの。ご両親や友達にはなんていうの。学校はつまらないからコールボーイになりました。そんなことみんなに本気でいえるの」

恵のいうことは正しい。

だが、それは余計なおせっかいだ。

領の中に恵を傷つけたいという気持ちが芽生えた。

「それなら、ぼくにどうさせたいんだ。縛りつけて自由を奪い、無理やり大学に引き戻すのか。表面だけ正しくても心が止まっている人間にぼくはなりたくない。娼夫の仕事でいろいろな女性の不思議や、欲望の不思議を僕は見てきた。法律違反でも汚い仕事でも、ほんとうにやりがいがあるし、感動することだってあるんだ。正しくて立派で申し分なくても、ぜんぜん胸に刺さらないことってあるだろ。ぼくたちのまわりはそんなものだらけだ。放っておいてくれ。もう少しこの仕事でがんばって、あの世界の果てを見てみたいんだ」

一緒に来ていた進也にはそれで伝わったようだが、恵は納得しなかった。

「リョウくんをたらしこんだマダムって、そんなにいい人なの。シンヤくんはすごく色っぽいけど怪しいおばさんだっていってた。その女に騙されてるんじゃないの。…リョウくん、どうせ、そのおばさんとも寝てるんでしょう」

思いもかけない方向からの攻撃。なぜだかわからないが、その一言で領の中の何かが切れた。

「冗談じゃない。御堂さんとは手も握っていないし、ぼくは彼女と寝るつもりはない」

十分に間をおいてつくり笑いを浮かべる。

「それはメグミと寝るつもりがないのと同じだ」

恵の表情がサッと変わる。

失敗したと思ったが、口を出た言葉は戻らない。

「わかった。もう、いいよ。でも、わたしは自分が間違ってるとは思わない。よく考えてみるから、またいつかきちんと話をしよう」

涙を目に浮かべながら、恵は領の前から去っていった。

 

…。

 

恵の言葉は数日たって領の心に響き始めた。

娼夫をやめようと思ったわけではない。

けれど、世間に認められない仕事であることは確かだ。

そう意識しつつも、領の意志は変わらなかった。

(この先、ぼくがどう変わっていくのか。それを最後まで確かめてみたい)

 


 

恵と話した日から領はさらに仕事に全力を注ぐようになり、やがてクラブでナンバーワンのコールボーイになった。

「ナンバーワンには、何かご褒美はないんですか」

ほしいものを言ってごらんなさい、という静香に領は言う。

「ぼくとつきあってもらえませんか」

「わたしはあなたのお母さまと同じくらいの年よ。今さら本気で若い男の子とつきあう気にはならない」

「年齢が障害にならないことは、あなただってわかっているはずだ」

領は強引に静香を押し倒す。

今の領にはわかる。静香は領を拒んではいない。

それなのに…

「やめておきなさい。他のことならなんでもしてあげる。でも、わたしはあなたと寝ることはできない。残念だけどね。もう起きなさい」

理由はわからないが、静香の意志は固く、動かないように思えた。

ならば、と領は言った。

「なんでもしてくれるといいましたね。それならもう一度ぼくに試験を受けさせてもらえませんか。直接あなたを抱けないなら、あのときのようにしたいんです。静香さんにぼくを見てもらいたい。咲良さんに面倒をかけますが、もう一度試験を受けさせてください」

「…わかった。今夜12時にいらっしゃい。咲良にも用意させておく」

「ありがとうございます」

恵に静香のことを侮辱されたとき、領は仕事のことを侮辱されるよりも激しく嫌な気持ちになった。

そこにどんな心の働きがあるのか。

今夜の試験を通して、領は自分の心を試そうとしていた。

 


 

夜が来た。

初めての時と同じ部屋。

静香が着ている服もあの夜と同じものだ。

あの時と同じように携帯電話で咲良を呼び出すと、静香は言った。

「咲良はすぐに来る。彼女はあなたのことが気に入っているようね。わたしではなく、あの子とこれからはデートしてあげて」

その時領は初めて2人の関係に気がついた。

静香の口調は娘のボーイフレンドに挨拶する母親のものだ。

「咲良さんのフルネームは御堂咲良なんですね」

「そう。咲良はわたしの娘」

やがて咲良が現れ、あの夜の再現が始まる。

領は娼夫としての技術を使わず、あの夜と同じように咲良の身体に溺れた。

静香に見られながら咲良を抱く…それはどの女性との行為でも感じられなかった不思議な快感だった。

再試験を始めて五分ほどで、領は頭ではなく全身で理解する。

(短い人生だったけれど、恋と性についてならぼくにもいくらかわかることがあった。しかし、愛について尋ねられたら何も言うことはできないと諦めていた。けれども、試験を続けている間、疑いえないほど確かなことがひとつだけあった)

(御堂静香に見つめられ、咲良とひとつになるのは、限りなく愛に近い何かだ)

行為が終わると、静香はゆっくりと口を開いた。

「わたしも昔はリョウくんのような娼婦だった」

領は黙って静香の話を聞く。

静香がお金のためではなく、リョウと同じようにやりがいのために仕事をしていたこと。

すぐにクラブのナンバーワンになったこと。

やがて咲良が生まれたが、相手の男とはすぐに別れてしまったこと。

耳の聞こえない咲良に最高の医療を受けさせるため、新しく女性向けのクラブを立ち上げたこと。

そして…静香がHIVに感染していること。

「あのときリョウくんを拒否するには自制心が必要だったな。…ねえ、わたしがどうしてこんなことをリョウくんに話していると思う?」

答えがわからずにリョウが黙っていると、静香は仕事の口調に戻って言った。

「リョウくん、うちのクラブでマネジメントをやってみない。お客と男の子を管理できて、現場のこともわかる男性スタッフが必要なの。あなたには才能がある。遠くない将来、私はリタイアするでしょう。そうしたらクラブは咲良とあなたのものになる。リョウくんには咲良を支える耳と声になってほしいの。どんな大企業よりも素晴らしい条件をわたしは提示する」

疲れていて、とても今はまともな判断ができない。

「必ず返事はします。少し考えさせてもらえませんか」

その夜、領は静香のマンションで泥のように眠った。

そして翌朝、領は一週間の猶予をもらって部屋を離れた。

 


 

クラブの経営側に加わるかどうか。

考えているうちにも仕事は入る。

「名指しでリョウくんに指名があった。若い女の子のお客さま。楽しんでいらっしゃい」

指定されたホテルの一室でリョウを待っていたのは…恵だった。

客として領の仕事ぶりを確かめてみたいのだという。

悲愴な面持ちを浮かべた恵の決意は固いようだ。

(…仕方がない)

領は娼夫として全力で、そしていつもよりもさらに優しく丁寧に恵を抱いた。

…。

すべてが終わったあと、恵は涙でぐしゃぐしゃになった顔で言った。

「やっとわかったよ…リョウくんはわたしがいる世界とは別な世界の人なんだね…抱き方だってぜんぜん違う…自分とわたしが違うことを証明したくて、あんなに凄いことしたんでしょう…あれが売れっ子のプロの仕事だったんだ」

返事の必要はないだろう。それだけわかってもらえれば十分だ。

だが、恵はすべてを納得したわけではなかった。

「でも、わたしはリョウくんの仕事にはやっぱり反対する。リョウくんはこんなことしていちゃいけない人だよ」

「もういいんだ。放っておいてくれ。ぼくは娼夫を一生の仕事にするかもしれない。ぼくにはこんなことしかできることはないんだ」

うっかり「経営陣に加わらないかと打診されている」と領が話すと、恵の顔色がさっと変わった。

「明るい昼の光の中で、友達や家族が生きてるこの世界で、そんなことを一生やるつもりなの。わたしは絶対反対だよ。リョウくんは自分の自由だっていうけど、自由はひとりだけのものじゃない。今日わかった。わたしはリョウくんのことが好き。だから、リョウくんに反対する権利があるし、絶対リョウくんに娼夫を辞めさせる」

熱烈に自分の正しさを信じて疑わない人間特有の不気味さが感じられる声。

「もういってもいいよ。だけど、これからしばらくのあいだ、御堂さんのところに近づかないで。きっとリョウくんも、いつかわたしに感謝するようになる。わたしはすべてリョウくんのためにやるんだからね」

たたきつけるようにそういうと、恵はバスルームに走りこんでしまった。

中からは声を張り上げて泣く声が漏れている。

やがて静かになったバスルームに声をかけて、領はホテルを後にした。

バスルームからの返事はなかった。

 


 

結末

恵の決意の意味が分かったのは、2日後だった。

『女性向け秘密クラブ経営者逮捕』

新聞記事が報じていたのは紛れもなく静香の逮捕。

領はすぐに恵が警察に密告したのだと直感した。

 

記事が出てしばらくたっても、領のもとに警察が来ることはなかった。

領はいつしか以前の生活へと戻っていく…。

 

静香の逮捕から一週間後、領は静香のアパートを訪ねた。

応対してくれた咲良がかかえたホワイトボードで意志を伝えてくる。

『内定が続いているかもしれない。こんなところに来てはだめ。静香さんの手紙だけ持ってすぐに帰って』

咲良の手に押されて来た道を戻る。

その道中で、領は静香からの手紙を開いた。

『書類や記録はすべて廃棄しました。クラブの子やお客様に迷惑はかけないから安心してください。うちでは本当に大切なことはすべて咲良の頭の中に入っています。あの子さえしっかりしていれば、仕事を再開するのはそう難しくないのです。領くんはあまり自分を責めてはいけません』

『もう一つ大切な話があります。伝えるかどうかどうか迷ったけれど、あなたならきっと知りたがるだろうと思います。あなたの(亡くなった)お母さまは、わたしと同じ仕事をしていました。今の領くんなら一方的にお母さまを責めることはないでしょう。考えてみると領くんとお母さま、それに咲良とわたしは似た者同士の親子だったのですね。四人とも一つの仕事で結ばれていた。つまらない思い込みかもしれないけれど、わたしたちは出会うべくして出会ったのかもしれないと今は感じています』

『裁判の様子がどうなるかはわかりませんが、わたしの不在は長くはないでしょう。あの時の申し出は今も生きています。あなたにやる気があるのなら、咲良をサポートしてやってください。あの子は本気であなたが好きなようです』

 


 

目まぐるしく充実した夏の残滓も消えた10月。

領がバーテンダーのアルバイトをしている店に咲良が訪ねてきた。

同行していた売れっ子コールボーイのアズマが咲良の手話を通訳する。

「まわりが落ち着いたら、またクラブを始めるつもり。いつかママがいっていた提案の答えが知りたい…うちの店を手伝ってくれるかしら?リョウさんが原因でママが捕まったとしても、無理しなくていい。あなたが本当にしたいことを選んで」

静香の手紙を読んだとき、領の心はすでに決まっていた。

ぼくでよかったら、クラブの仕事を手伝わせてほしい。ぼくも咲良さんやアズマと一緒に働きたい。みんなで静香さんの帰りを待とう」

領の答えを聞くと、咲良は安心したように泣き出した。

領がそっと咲良の手に自分の手を重ねると、咲良は手のひらを返し、握りしめてくる。

指と指が絡んだ。

サインをつくっていないときも、彼女の手はとてもたくさんのことを語る。

<娼年・完>

 

※この後、物語は続編である小説「逝年」へと続いていきます。クラブを再開した咲良と領。だが、帰ってきた静香に残された時間はあまりにも少なかった…。続きが気になる方はぜひ「逝年」の方もチェックしてみてください!

 


 

感想と解説

小説「娼年」は2001年の作品。

著者である石田衣良さん初の恋愛小説であり長編小説ということで、かなり初期の作品なんですね。

そのあらすじは「退屈を持て余していた大学生がコールボーイになる話」と非常にシンプル。

一応、最後には

  • 実は咲良と静香は親子だった
  • 実は亡くなった領の母親も娼婦だった
  • 実は静香はHIV感染者だった

などの秘密が明かされるものの、それはミステリー小説のように「物語の核」となるような性質のものではなく、あくまでストーリーの一部にすぎないという印象です。

ただし、あらすじがシンプルであるからといって、内容までもがシンプルであるとは限りません。

何よりも特筆したいのは、これほどメインテーマを生々しく詳細に、かつ多くのページを割いて描写しているのにも関わらず、まったくもって『下品』という表現が似つかわしくない作品である、ということ。

物語の中で、主人公であるリョウは女性の多様な『欲望のかたち』に触れ、その面白さにのめり込んでいきます。

その時の主人公を突き動かしていたのは「知的好奇心」

「生きていく中で切っても切り離せないもの」の奥深さを知った主人公は、数々の女性と肌を重ねていく中で彼女たちの心の深奥に触れ、それを鏡として自分の心の深奥をも探っていきます。

つまり、「娼年」における行為はもちろん「相互理解(=コミュニケーション)のための手段」でもあり、リョウにとっては「人生においてとても大事なことを学べる場」でもあったわけです。

そういう意味では「娼年」は主人公・リョウの成長物語だったとも言えるでしょうし、「人生においてとても大事なこと」を私たち読者にこっそりと教えてくれる物語だったと言ってもいいでしょう。

 

柔らかく思いやりのある優しさ…そんな雰囲気が漂う一冊です。

きっと読む人にとって受け取り方・感じ方はそれぞれでしょうから、興味を持たれた方はぜひ小説「娼年」をお手に取ってみてください。

この作品はいわゆる「不朽の名作」として残っていく小説だと思います。

※ちなみに文庫で200ページくらいなので、一気読みもできるボリュームです。

 


 

まとめ

今回は石田衣良「娼年」のあらすじ・ネタバレ・感想などをお届けしました!

映画「娼年」のキャストは領役の松坂桃李さん以下、御堂静香役に真飛聖さん、咲良役に冨手麻妙さんなど。

個人的な感想としては、元宝塚トップスターの真飛聖さんは静香のイメージにピッタリです!

映画『娼年』の配信は?

娼年
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※配信情報は2020年6月時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。

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