ラストに驚き

「パラレルワールドラブストーリー」あらすじネタバレ!結末は?

東野圭吾「パラレルワールド・ラブストーリー」がおもしろい!

タイトルそのままなんですが「パラレルワールド」の謎に迫っていくミステリー部分も、奇妙な三角関係の「ラブストーリー」がどうなるのかという恋愛部分も読みごたえ抜群でした!

今回は映画化された小説「パラレルワールド・ラブストーリー」のあらすじネタバレをお届けします!

友情と恋愛感情を秤にかけた主人公の結末とは…!?

はじめに

小説「パラレルワールド・ラブストーリー」は全10章(+序章)で構成されています。

各章は前半と後半に分かれていて、それぞれ「別の世界(パラレルワールド)」での出来事が描かれているわけですね。

また、この小説では『章』の区切りとは別に『SCENE(シーン)』という区切りも存在しています。

ちょっとわかりにくいのですが、この『SCENE』は「序章と第一章前半(シーン1)」「第一章後半と第二章前半」という具合に章をまたいでセットになっているのが特徴です。

今回は原作小説の構成にそって『章』と『SCENE』の区切りごとに物語の展開を見ていきたいと思います。

あらすじネタバレ

序章

★SCENE1

敦賀崇史と三輪智彦は中学時代からの無二の親友だ。

それは研究者になった今でも変わらない。

2人はバイテック社という企業に入社し、今は教育と研究を兼ねた「MAC技術専門学校」に通っている。

研究班こそ違うが、2人が携わっているのは『次世代の仮想現実』に関する研究だ。

崇史も智彦も優秀な研究者であり、バイテック社からも期待の新人として注目されていた。

 

優秀な研究者という点では共通している2人だが、その人柄はあまり似ていない。

崇史は昔から社交的で、女性からもよくモテた。

一方、智彦はどちらかといえば神経質で内気な性格であり、こう言ってはなんだが、あまりモテない。

片足が少し不自由であり、足を引きずるようにして歩くのが災いしているのだろう。

崇史は昔から、足のことをからかう差別的な人間たちから智彦のことを守ってきた。

そして、智彦の本当の良さを理解できる女性が早く現れればいいのに、と思ってきた。

 

だから智彦から「恋人を紹介したい」と言われたとき、崇史はまるで我がことのように喜んだ。

待ち合わせは、とある喫茶店。

智彦が恋人を連れて崇史の席へ歩いてくる。

その恋人…津田麻由子の顔を見た瞬間、崇史は絶句した。

その顔を知っている。

いや、知っているなんてものじゃない。

まだ崇史が大学院に在籍していた頃、崇史は週に何度も彼女のことを見つめていた。

今でも忘れられないほど、大好きな顔だ。

彼女は、崇史が使っていた電車(山手線)と並行して走るもう一つの電車(京浜東北線)にいつも乗っていた。

向こうが崇史に気づいていたのかはわからない。

しかし、崇史は完全に彼女に惚れてしまっていた。

結局、最後まで直接会うことはなかったが、崇史は本当に彼女のことが好きだったのだ。

それがまさか…親友の恋人として紹介されることになるだなんて。

麻由子は崇史を見て一瞬ハッとした表情になったようだったが、すぐに元の表情にもどった。

あるいは、崇史の勘違いかもしれない。

 

とにかく崇史は、不遇な親友にやっと美人な恋人ができたことを祝福した。

だが、その内心ではすでに嫉妬の気持ちが芽生え始めていた。

 

 

第一章 違和感

※1章以降、章の前半は「パラレルワールド」、後半は「序章の続きの世界」になっています。ちょっとヒントになりますが、第1章時点で「パラレルワールド」と「序章の続きの世界」には約1年間の時間的ズレがあります。

 

★SCENE1(パラレルワールド)

目が覚めると、麻由子が朝食をつくっていた。

その光景に、崇史は言いようのない違和感を覚える。

崇史と麻由子は同棲しているのだから、何もおかしなことはない。

それなのに…この違和感は何だ?

答えを得ないまま、崇史はバイテック社に出社するための準備を整える。

先日、崇史はMACを卒業し、正式にバイテック社に配属されたばかりだ。

ふと、崇史は智彦のことを『思い出す』

あれだけ毎日のように顔を合わせていたのに、崇史はここしばらく智彦のことを『忘れていた』

いったいどうして…?

 

★SCENE2(序章の続きの世界)

麻由子もまたバイテック社に入社し、MACに通うことになった。

配属されたのは智彦が所属する「記憶パッケージ班」

MACでも一緒にいられることになった恋人たちに、崇史は「おめでとう」と声をかけた。

だが、言葉とは裏腹に崇史の心中は暗い。

親友の恋人であるにも関わらず、麻由子への気持ちは日に日に大きくなっていく。

いくら自己嫌悪しようとも「麻由子が好きだ」という気持ちを抑えることができない。

そんな崇史の気も知らず、人のいい恋人たちは崇史のことを信じきっているようだ。

そのことがまた崇史の罪悪感を大きくしていく。

それでもやはり、麻由子と話すだけで崇史の心はどうしようもなく弾んでしまうのだった。

 

 

第2章 胸騒ぎ

★SCENE2(パラレルワールド)

なぜ、智彦のことを忘れていたのだろうか?

思い出せるのは…そうだ、智彦が麻由子を紹介してくれたときのことは覚えている。

智彦が『友人』として麻由子を紹介してくれたおかげで、自分たちは付き合い始めた…。

いや…?

ふと、崇史は『夢で見た光景』を思い出す。

夢の中では、智彦は麻由子を「自分の恋人だ」として崇史に紹介していた。

おかしな夢だ。

あの時、智彦と麻由子は恋人ではなく友人だったはずだ。

そう思いつつも、崇史はいまいち自信を持てないでいた。

まるで『記憶が二重にある』ようだ。

現在同棲までしている以上、もちろん麻由子は崇史の恋人に違いない。

ならば、智彦と麻由子が恋人同士になっている「もう一つの記憶」はいったい何だ?

崇史は何かに追い立てられるように麻由子を抱こうとしたが、智彦の顔が思い浮かんで、結局できなかった。

…智彦は今、ロサンゼルス本社にいるという。

 

★SCENE3(序章の続きの世界)

麻由子は智彦の足のハンデについて、ずいぶんと気を遣っているようだ。

例えば、麻由子と崇史は軟式テニスの話題で盛り上がったことがあるが、麻由子はそのことを智彦に秘密にしている。

しかし、智彦はよく人の気持ちを見抜くので、そのことに気づいているかもしれない。

こうした小さなすれ違いが積み重なり、いずれ2人の気持ちを大きくすれ違わせればいい、と崇史は思った。

 

 

第三章 喪失

★SCENE3(パラレルワールド)

智彦は2カ月前にロス本社に行ったというが、何かがおかしい。

親友なのだから、連絡の1つくらいあっていいはずだろう。

いや、そもそも問題は自分に「ここ数カ月の智彦に関する記憶」がないことだ。

いったいMAC時代の智彦と自分に、何が起こったというのだろうか?

 

MAC時代の智彦の部屋に行き、合鍵を使って中に入る。

部屋には引っ越しの形跡はなく、その代わり泥棒でも入ったかのように荒らされていた。

侵入者の目的は智彦の研究資料か…?

 

どうも記憶が不鮮明だ。

特に智彦と麻由子に関する記憶については。

1年前、麻由子の恋人だったのは智彦の方だった?

嫌な考えが頭から離れない…。

 

★SCENE4(序章の続きの世界)

MACで智彦や麻由子が所属している「記憶パッケージ班」は、脳そのものに働きかけて「現実ではないもの」を見せる研究をしている。

6月、崇史は記憶パッケージ班の篠崎が「自分の班では画期的な大発見があった!」と話しているのを耳にした。

どうやら『記憶の改編』に関する研究成果が上がっているらしい。

 

 

第四章 矛盾

★SCENE4(パラレルワールド)

謎を解く手がかりは、MAC時代の智彦の研究にあるのではないか?

そう考えた崇史は、篠崎という男のことを思い出す。

記憶パッケージ班にいた篠崎は去年の秋ごろに失踪し、そのまま退学扱いになっている。

崇史は篠崎の恋人である直井雅美に接触し、話を聞いてみることにした。

篠崎の失踪は今現在の智彦の状況に似ている、と崇史は感じた。

 

ロス本社に電話をかけてみる。

智彦は『特別なプロジェクト』に参加しているため、電話もつなげないし、居場所も明かせないという。

…怪しい。

そんな中、まるで図ったかのように崇史に一通の手紙が届いた。

差出人は三輪智彦。

「元気でやっている」という文章に安心したのも束の間、崇史はすぐに違和感に気がついた。

おそらく、この手紙を書いたのは智彦ではない。

『誰か』が『何か』を隠そうとしている、その偽装工作の一環に違いない…。

 

偶然、街で夏江と再会した。

これも今まで忘れていたことだが、智彦から麻由子を紹介された席に夏江も同席してもらっていたのだった。

すっかりそのことを忘れて「二年ぶりぐらいかな」などと崇史が言ったので、夏江は不思議そうな顔で訂正した。

「何いってるの、去年会ったじゃない。新宿で。ええと、三輪君っていったっけ。あの人の恋人を紹介してもらうって時に」

「えっ…」

崇史は夏江の顔を見つめた。記憶がもつれ、過去の映像が混乱した。

 

 

★SCENE5(序章の続きの世界)

やはり智彦たちの班は何か大きな成果を上げたようだ。

その成果は社内の人間にすら秘密にされていて、それとなく智彦に尋ねてみても誤魔化されてしまう。

おそらく研究の中心人物は智彦なのだろう。

麻由子の件に加えて、仕事でも差をつけられてしまうなんて…。

智彦への嫉妬心がより大きくなっていくのを、崇史は感じていた。

 

7月10日は麻由子の誕生日だ。

当日はきっと智彦と一緒に過ごすのだろう。

その夜、2人の関係が進むのかと思うと、崇史は居ても立っても居られなくなる。

…もう、限界だった。

誕生日の前日、崇史は麻由子にプレゼントを渡すと、正直に自分の気持ちを打ち明けた。

麻由子のことが好きだ、と。

「困っちゃったな。こんなふうになっちゃうなんて」

「正直いうと、俺も困ってるんだ。こんなことをしていいのかどうか、よくわからない。たぶんよくないんだろうとは思うんだけど、どうしようもなくってさ」

「すごく困ってる。だけど…たぶんこういうことはいっちゃいけないんだろうけど…悪い気はしてないの」

「そう。よかった」

「でも、これは受け取れないな」

崇史は「気にせず受け取ってほしい」と頼むが、麻由子は頑なにそれを拒んだ。

「今までどおりがいいと思う。これを受け取ったら、あたし、これまでのようには敦賀さんと話せない」

「それは仕方ないな」

「そんなのいやだもの。三人で話をするのが、あたしはとても好きだったのに」

「もうどうせそれはできないよ」

「そんなことないと思う」

崇史は友情を捨てる覚悟で告白したのだが、麻由子はどうしても崇史と智彦の友情を壊したくないという。

結果として、崇史の告白は失敗に終わったのだ。

麻由子はこれからも、智彦の恋人だ。

 

ならば、せめて。崇史はずっと確かめたかったことを麻由子に尋ねた。

「君を好きになったのは、智彦よりも俺の方が先だ。二年前、君は京浜東北線に乗っていただろ?」

とたんに、麻由子の表情が険しくなった。

「俺は山手線に乗っていたんだ。二つの電車は並行して走っていた。俺はいつも君を見ていた」

麻由子は答えない。その沈黙は肯定を意味しているように思われた。

「君も…覚えてるんだろ?」

麻由子は首を横に振った。

「覚えてない、そんなこと」

うそだ、と言おうとしてやめた。それを今問い詰めても何の意味もない。

 

結局、崇史がどうしても引き取ろうとしなかったので、プレゼントは麻由子が預かるということで落ち着いた。

 

 

第五章 混乱

★SCENE5(パラレルワールド)

夏江に言われて思い出した。そうだ、確かにあの時、麻由子は智彦の恋人だった!

崇史は自分の中に『二つの記憶』があることをはっきりと自覚する。

それにしても、わからないことだらけだ。

どうして麻由子は今、自分の恋人なんだ?

これは何者かによる…記憶の改編なのか?

記憶の改編が行われているとしたら、黒幕はバイテック社ということになるだろう。

しかし、何のために?

崇史は混乱する頭を抱えながら、なんとか状況を整理しようと試みる。

1つ確かなことは、この事件には智彦も関係しているということだ。

未だ思い出せないMAC時代の記憶に、何か秘密が隠されているのだろうか…?

崇史は慎重に『正しい記憶』を辿っていく。

自分が親友の恋人を好きになってしまっていたことまでは思い出せるが、そこから先がわからない。

…ふと、崇史は智彦が何か重大な研究成果を上げていたことを思い出す。

確か、記憶の改編に関する研究だったはずだ。

ならば自分は、その研究の実験台になっているのではないか?と崇史は仮説を立てた。

だが、今はその仮説を確かめるよりも先にやるべきことがある。

麻由子と話をしなければ。

家に帰り、麻由子の帰りを待つ。

しかし、いつまで待っても麻由子は帰ってこない。

部屋の中を調べてみると、いつのまにか麻由子の荷物がなくなっている。

崇史は認めないわけにはいかなかった。

麻由子は、家を出ていってしまったのだ。

念のため麻由子が借りていた部屋を訪ねてみるが、すでに引き払われていた。

 

麻由子が、消えた。

それもおそらく、崇史の記憶が戻りつつあることを察して。

…いったい、何がどうなっているんだ?

 

 

★SCENE6(序章の続きの世界)

麻由子の誕生日。崇史は智彦と麻由子が肉体関係をもっただろうかと想像し、複雑な思いを抱いていた。

智彦への祝福と嫉妬。同時に押し寄せる相反する感情に、崇史は混乱する。

 

その夜、崇史の部屋に来客があった。

訪ねてきたのは智彦だ。珍しく酷く酔っている。

話を聞くと、どうやら麻由子をホテルに誘ったが断わられた、ということらしい。

そのことに智彦は大きなショックを受け、こうして泥酔しているわけだ。

智彦の愚痴を聞きながら、崇史は安堵するとともに、そのことに対する自己嫌悪を感じていた。

2人がまだ寝ていないのは嬉しい。しかし、それを喜ばしく思うなんて自分はなんて卑怯なんだ、と。

眠りに落ちる前、智彦は言った。

「僕には麻由子しかいない。彼女みたいな女性はもう現れない。彼女を失いたくない。誰にも奪われたくない」

智彦は返事を待っているようだったが、崇史には何も言うことができなかった。

 

翌日、崇史は麻由子と会った。

麻由子はやはりどうしても智彦と崇史の友情を壊したくないらしい。

だから、崇史の告白のことを智彦には黙っている。

智彦からの誘いを断ったのは、単に時期尚早だと思ったからだという。

彼女の望みは、ずっとこのままの関係が続いていくことなのだ。

「それはつまり、君が俺の気持ちに応えてくれる日も来ないってことなのかな」

「そういうことになるわね」

麻由子は静かに断言した。

 

 

第六章 自覚

★SCENE6(パラレルワールド)

出社すると、いつもの研究室が空っぽになっていた。

重役から呼び出され「研究は凍結する」と一方的に告げられる。

次の研究テーマが決まるまで、崇史は一時的に特許ライセンス部に配属されることになった。

崇史の直属の上司であり、MAC時代には智彦たちの班の教官でもあった須藤は、次の研究テーマを模索するため、すでにアメリカへ旅立ったという。

…麻由子に次いで、須藤まで消えた。しかも、智彦と同じような消え方で。

偶然の一致だとは考えられない。

これも一連の謀略の一部なのか…。

MACに連絡してみる。やはり麻由子にはつながらない。智彦の時と同じだ。

 

ふと思いつき、崇史は智彦の提出した報告書を検索してみた。

結果は『0件』

もちろんそんなはずはない。智彦は誰よりも多く報告書を提出していたはずだ。

会社によって抹消されたのか…。

 

 

★SCENE7(序章の続きの世界)

8月。恒例のMACのパーティーが開催された。立食形式の慰労会だ。

崇史の目の前では、篠崎が同僚と談笑している。

やがて篠崎達は何やら口論を始めた。

どうやら篠崎が「俺は東京出身だ」と主張して引かないらしい。

しかし、篠崎が広島出身であることは誰もが知っている。

冗談でもない様子だし、どうして真剣にそんな嘘を吐くのだろうか?

篠崎は次々に同僚たちから矛盾点を指摘され、徐々に混乱していき、そうして最後には倒れてしまった。

すぐに同じ研究班の智彦や須藤が駆けつけ、篠崎を運んでいく。

須藤は「酒の飲み過ぎだ」と周囲にアピールしていたが、篠崎はほとんど飲んでいなかった。

どう考えても怪しい。

もしや篠崎には『記憶の改編』が施されていたのではないか…?

 

 

第7章 形跡

★SCENE7(パラレルワールド)

篠崎は記憶改編の実験台となり、バイテック社の意向により失踪した。

崇史はそう仮説を立て、調査のため直井雅美とともに篠崎の部屋へ。

しかし、目新しい発見はない。それだけ偽装工作が完璧だということか。

…果たして、篠崎は生きているのだろうか?

ふと、崇史の頭にイメージが浮かんだ。

棺。それを運ぶ人々。まるで『出棺』のような…。

次の瞬間、崇史の全身から力が抜け、意識が遠のいていく。

遠くで雅美の声が聞こえた。

 

 

★SCENE8(序章の続きの世界)

9月。崇史と智彦はバイテック社の人事部から呼び出された。

用件はロサンゼルス本社配属についての打診。

本社に行けるのは限られた優秀な人材だけであり、毎年1人か2人しか選ばれない。

今年はそれに智彦と崇史が選ばれたというわけだ。

ロス本社行きは崇史が目標としていたことだ。もちろん嬉しい。

しかし、崇史は素直に喜ぶことができなかった。

この機会に、智彦は麻由子に結婚を申し込むつもりだという。

智彦は麻由子をアメリカに連れていくつもりなのだ。

…俺はロス本社に行ってまで2人の新婚生活を見せつけられなければならないのか?

崇史の気持ちは暗く沈んだ。

 

「あたし、アメリカにはいかない」

麻由子は智彦からの申し出を断り、日本に残るつもりだという。

重大な決断をするにはまだ早いし、仕事だってある、というのが麻由子の言い分だ。

理由はどうあれ、とにかく崇史には朗報だった。

これで智彦と麻由子は遠距離になる。

ならば、これはチャンスに違いない。

崇史は麻由子のそばにいるため、念願の本社配属を辞退した。

 

世の中には因果応報という言葉がある。

崇史は身をもってそのことを思い知った。

辞退した崇史の代わりに、なんと麻由子にロス本社行きの話が回ったのだ。

なんということだろう!それでは…何の意味もない…。

しかも、もともと崇史は「智彦を補佐する人間」として選ばれたのだという。

重い敗北感が崇史の上にのしかかった。

 

「君のそばにいたかったんだ」

崇史は情けなく麻由子に辞退の理由を打ち明けた。

もう麻由子を奪おうなどという気力は湧いてこない。

すべては自業自得なのだ。

きっと罰が当たったのだろう。

自分が卑怯な人間だから…チャンスも麻由子も失ってしまったのだ。

崇史は心からそう思った。

だが…

「断ったわ」

なんと麻由子までもが本社行きの栄誉を辞退してしまったのだという。

「なぜ?」

「だって…あたしが行くわけにはいかないと思ったから」

麻由子は詳しく理由を説明しようとはしない。だが、それは問題ではない。

これからも麻由子の近くにいられる!

崇史は舞い上がってそのことを喜んだ。

 

麻由子と話してわかったことがある。

やはり、智彦は記憶改編技術を完成させつつあるようだ。

「三輪智彦は天才だ」としか言いようがない。

崇史は智彦に会うため、深夜のMACに入り込み…目撃する。

須藤と智彦、それに見知らぬ男たち。

彼らはまるで棺のような長い箱を車に乗せている。

やがて静かに動き出した車を、須藤と智彦が見送る…。

わけのわからない恐怖が、崇史の胸の中で広がっていった。

崇史は智彦たちに見つからないように、こっそりとMACから出ていった。

 

 

第八章 証拠

★SCENE8(パラレルワールド)

意識を失っていたのは一瞬のことだったようだ。

突然ふらついた崇史に、雅美が心配そうな眼差しを向けている。

今の一瞬で、崇史はMACで見た「棺」のことを思い出していた。

あの箱の中身は…篠崎だったのではないか?

崇史はそう思ったが、雅美には伝えることなく篠崎の部屋から出た。

ふと、視界の端に影がよぎる。

以前から疑っていたことだが、今の人影で確信が持てた。

どうやら何者かに監視されているらしい。

崇史の背にぞわりと鳥肌が立った。

 

翌日。崇史は有休をとり、地元の静岡へと向かった。

本来ならば須藤や麻由子から話を聞きたいところだが、おそらく彼らと接触することは難しいだろう。

ならば、次善の策は「記憶を取り戻すこと」だ。

崇史は一度実家へと帰り、記憶探しに専念することにした。

急な里帰りに両親は喜ぶというより心配そうな顔を見せたが、適当に誤魔化しておいたので問題はない。

そうだ、せっかく地元に帰ってきたのだから、智彦の実家を訪ねてみてはどうだろう?

崇史はさっそく行動に移ったが、あいにく智彦の両親は不在だった。

近くの住人の話によれば、今日になって急に旅行に出かけたそうだ。

その表情は険しく、楽しい旅行に出かけるという雰囲気ではなかったという。

…崇史が地元に戻ると知って、慌てて逃げたのか?

智彦の両親は「真実を隠したい側」の人間なのか…。

 

実家に帰ったはいいものの、記憶を呼び起こすために特に何をするわけでもない。

崇史は前に送っておいた荷物(段ボール箱)の整理をすることにした。

中身はとるに足らないものばかりだったが、1つだけ見覚えのない包みが入っている。

包みの中に入っていたのは、智彦がいつも使っていた眼鏡。右のレンズが割れている。

…自分はいったいどこでこの眼鏡を手に入れたのか?

そう考えた瞬間、不意に意識が遠のき、ある映像が浮かんできた。

目を閉じた智彦の顔。

側に立つ崇史が、眼鏡のないその顔を見下ろしている。

「俺が智彦を殺したんだっ」

記憶の中の自分の言葉に、崇史は強い衝撃を受けた。

 

 

★SCENE9(序章の続きの世界)

12月。麻由子と崇史は相変わらず微妙な関係のまま。

崇史は以前にも増して麻由子にアプローチするようになったが、彼女ははっきりとどちらかを選ぶことができないようだった。

一方、麻由子と崇史の関係とは違い、智彦の様子は明らかに変になっていた。

一日中研究室に閉じこもり、じっと座っている。

本人は考え事をしているだけだというが、明らかにふさぎ込んでいる様子だった。

 

クリスマスが近づいてきたある日、智彦が崇史を訪ねてきた。

遠回しな言い方だったが、おそらく智彦は崇史の気持ちに気づき、それを確かめに来たのだろう。

崇史はそう推測し、やはり遠回しに「智彦と麻由子の仲を応援することはできない」と答えた。

友情の消滅。

もう後戻りはできない。

 

このまま何もしなければ、智彦と麻由子は一緒にクリスマスを過ごすことになる。

崇史の気持ちを知った以上、智彦は多少強引なやり方に訴えてでも麻由子を抱こうとするはずだ。

…それだけは、我慢できない。

きっと崇史の頭からは冷静さが失われてしまっていたのだろう。

気づけば崇史は麻由子の部屋のインターホンを押していた。

驚く麻由子には構わず、強引に部屋に押し入って告げる。

「君を抱きにきたんだ」

麻由子は首を横に振った。しかし、崇史は聞く耳を持たない。

麻由子がどんなに嫌がっても、悲し気な表情を浮かべても、崇史は決意を翻そうとはしなかった。

そうして、やがて諦めたのは麻由子の方だった。

その夜、2人は無言のまま淡々と身体を重ねた。

 

事が終わったあと、崇史は傍らの麻由子に言った。

「俺との結婚を考えてくれないか」

「それはできない。今夜のことは忘れましょ。あたしも忘れるようにするから」

「どういうことだよ」

「これを最初で最後にしましょうっていってるの」

「智彦を選ぶっていうのか」

「あたしには選ぶ権利なんてない」

「どういう意味だ」

「ごめんなさい。これ以上あたしにしゃべらせないで」

「麻由子…」

「外を歩いてるわ。その間に出ていって。お願いだから」

崇史の制止を聞かず、そのまま麻由子は部屋を出ていった。

 

ひとり残された崇史の心に広がったのは、智彦に対する憎しみの気持ち。

(あいつさえいなければ…!)

そう考えていることに気づき、崇史は愕然とした。

いや、正確には少し違う。

驚いたのは、その光景を過去の記憶としてどこかから見ている『もう一人の崇史』の方だ。

この後、恐ろしいことが起こる。

そう予感しつつも、『もう一人の崇史』にはどうすることもできなかった。

 

※補足

もうおわかりかとは思いますが、この小説に「パラレルワールド」は登場しません。

2つの世界の関係は「現在」と「過去」

これまで「パラレルワールド」と表現していた世界の方が『現在』であり、「序章の続きの世界」の方が『過去』ですね。

「現在の崇史」には記憶の欠落があり、徐々にその記憶を取り戻していきます。

「序章の続きの世界」は「現在の崇史」が思い出している「過去の記憶」ということになります。

 

 

第9章 覚醒

★SCENE9(現在)

目覚めると、病室のベッドの上にいた。

どうやら智彦の眼鏡を見つけた後、そのまま実家で倒れてしまったらしい。

こうしてはいられない。

崇史は東京へと戻ると、そのまま真夜中のMACに侵入した。

目的地はかつて智彦がいた研究室。

…間違いない。この部屋で智彦は死んだんだ。

そして、智彦の命を奪ったのは…他ならぬ自分自身だ…。

 

いや、待てよ…?

崇史の頭に『ある仮説』が浮かぶ。

もし、この仮説が正しければ…。

崇史は同期の研究者・桐山景子に協力を頼み、普段は入ることができない区画へと侵入する。

果たしてそこには、崇史が想像した通りの『真実』が眠っていた。

「こういうことか。やっぱりこういうことだったんだな」

崇史の目の前には生命維持装置につながれた2人の人間がいる。

篠崎と智彦だ。

その姿は酷く痩せ衰えていて、痛々しい。

「すべて思い出したのかね」

後方から声がかかる。崇史が振り向くと、そこには須藤が立っていた。

「何もかも思い出しました。この二人は、まだ死んでるんですね」

「そう、まだ死んでいる」

須藤は言った。

「君が生き返らせるんだ」

 

 

★SCENE10(過去)

MACの卒業式の日。送別会の後、崇史は智彦に呼び出された。

場所はMAC、智彦たちの研究室。

本社行きを辞退した件か、それとも麻由子のことか…。

崇史は呼び出しの用件をあれこれと想像したが、智彦は意外なところから話を始めた。

「今までずっと秘密にしてきた研究内容を話しておこうと思ってね」

「へえ…」

しかし、やはり智彦の用件はそんなことではなかった。

研究について説明する前に、話題は崇史が本社行きを辞退した件へと移る。

「アメリカ行きの件、崇史の気持ちはよくわかるよ。僕だって、人の補佐役だと知ったらアメリカには行きたくないと思っただろうね」

智彦は「サポート役」という位置づけに崇史のプライドが傷ついたのだと思っているようだ。

アメリカに行ったら、崇史が自分の研究で本社に来られるよう働きかけるつもりだという。

…いったい何様のつもりだ。吐き気にも似た不快感が崇史の理性を吹き飛ばした。

「そうじゃない。プライドなんか関係ねえんだよ。俺がアメリカ行きを断ったのは、そんな理由じゃねえよ」

「じゃあ、どういう理由なんだ」

「見当がつかないか」

「つかないな。全然」

「麻由子のことだ」

「麻由子?彼女がどうかしたのか」

白々しい。智彦が気づいていないわけがない。

「好きなんだよ。彼女のことが」

熱くなっていた空気が一瞬で冷え切っていく。

智彦は激しく動揺しているようだ。

「どういうことなんだ、それは」

「どうもこうもない。俺は麻由子が好きだ。だからアメリカに行かないと決めたんだ。俺の彼女に対する気持ちには、おまえだって気づいていただろ?」

智彦はゆっくりと首を振り、後ずさりした。

「知らなかった。そんなこと、全然知らなかった」

智彦は信じられないという顔をしている。

だが、信じられないのはこっちの方だ。智彦は気づいていると思っていたのに…。

 

「わからないな」

やがて智彦はつぶやくように言った。

「もしそうだとしても、そのために崇史がアメリカ行きをやめるなんて、僕には理解できないな。だって彼女は…麻由子は僕のものなのに」

「どうしても彼女を手に入れたいと思ったんだよ。そのためには、おまえと彼女が離ればなれになっている時がチャンスだと思った。それにつけ加えて言うなら…彼女は誰のものでもない。おまえのものでもない」

「僕のものだ。僕だけのものだ」

「違う」

「仮に崇史がそういう気持ちだったとしても、麻由子は応じたりしないさ。彼女は僕のことだけを…きっと僕だけを愛してくれるはずだ。崇史のことなんか、絶対に、絶対に相手にしないさ」

智彦の顔は紅潮していた。呼吸も乱れている。それに対し、崇史の態度は実に落ち着いている。

「確かに、現在彼女は俺に対して心を開いてくれない」

「そうだろ」

「だけど、それはおまえがいるからだ」

「なんだって?」

「おまえを傷つけちゃいけないと思っている。親友と恋人の両方を同時になくすような目に遭わせたくないんだ。だから彼女は俺と会おうとしない」

「麻由子が本当に好きなのは自分だっていうのか」

「そう信じている」

「僕は信じない。そんな根拠なんて、どこにもないじゃないか」

「俺にはあるんだよ」

智彦は何かに気づいたようにハッと目を見開いた。

「彼女を…抱いたのか」

「ああ」

智彦はしばらく呆然としていたが、やがて電話をかけると、麻由子を呼び出した。

「彼女を呼んでどうする気だ」

「本心を聞く」

麻由子の到着を待つ間、智彦が話しかけてきた。

「僕から親友と恋人を奪うことについて、崇史はどう思ってるんだ?」

「仕方がない、と思っている。俺だって苦しんだけど、結局麻由子を諦められなかった」

「そうか…」

やがて、智彦はぽつりと言った。

「僕は…彼女を抱いたことがない…」

 

やがて麻由子が研究室に現れると、智彦は率直に尋ねた。

「すべて崇史から訊いた。君の本心を知りたい。君が好きなのはどっちなんだ。僕かい?それとも崇史かい?」

「そんなこと…」

麻由子は苦しげだった。瞳が潤み、そして揺れている。

「そんなこと、いいたくない」

決定的な一言だった。

今の麻由子の言葉で、彼女が智彦の恋人でなくなっていることは彼にもわかったはずだ。

「そうか…いいたくない、か」

少しだけ一人にしてくれと言い、智彦が研究室から出ていく。

2人きりになると、麻由子は「あなたは取り返しのつかないことをしてしまった」と崇史を非難した。

俺は…間違っていたのだろうか?

 

 

やがて智彦が戻ってきた。崇史だけを奥の部屋につれていく。

「僕の研究内容について話しておく」

今はそれどころではないと言ったが、智彦は「頼むから聞いてくれ」といって譲らない。

仕方なく、崇史は智彦の話を聞くことにした。

要約するとこんな内容の話だった。

・人間は都合のいい嘘や「こうだったらいいのに」という願望・空想をいつしか真実だと思い込んでしまうことがある

・この現象を利用すれば、記憶を改編することができる

・ある1つの事柄について記憶改編すれば、矛盾する他の記憶は自動的に「都合のいい偽の記憶」に書きかえられていく

・これを「ドミノ効果」と名づけた

智彦の話を聞いて、崇史は敗北感と嫉妬にまみれながら思った。

やはり三輪智彦は天才だ、と。

 

「崇史、このドミノ効果の実験をしたいと思わないか。僕を…実験台にしてさ

「何を言い出すんだ」

「冗談を言ってるんじゃない。変えてほしいんだ。僕の記憶を」

「智彦」

「だからこの装置の説明をしたんだ」

智彦は眼鏡をはずし、横の棚に置いた。

「麻由子のことは、もう忘れたい。はじめっから、彼女は僕の恋人なんかじゃなかった、そういうことにしたいんだよ。そうしなきゃ、これから生きていけそうにない」

「そういうわけか…」

「なあ崇史、頼むよ。記憶は時には人を縛るものなんだよ。今、僕を苦しめているのは記憶なんだ。それを取り除いてほしい」

智彦を止める言葉を探したが、そのどれもが薄っぺらく感じた。

「わかった、やってみよう」

変えるのは1年前、あの喫茶店での記憶。

あの時、智彦は『友人として』麻由子を紹介した。

そう思い込ませるのだ。

後は自動的に、脳が矛盾する記憶を書きかえてくれる。

実権を始める直前、智彦は崇史に写真ケースを渡した。写真には麻由子が1人で写っている。

「ディズニーランドに行ったときに写したものだ。崇史にもらってほしい。いいだろ?」

「…わかった。もらっておくよ」

「その写真ケース、古いからさ、新しいのに入れ替えてくれ」

神経の細かい智彦らしい言葉だった。

 

そうして、実験が始まった。

マニュアル通りに装置を起動させていく。

「スタートだ」

一分ほどで記憶が書き換わるらしい。

崇史は智彦の強さや自分の卑怯さについて想いを馳せることで、その時間を過ごした。

 

気づいたときには、画面にエラー表示が出ていた。

麻由子を呼んで装置を緊急停止させるが、智彦が目覚める様子はない。

麻由子の話によれば、智彦は『スリープ状態』に入っているということだった。

二度と目覚めることのない、永遠の眠り。

その説明を聞いた瞬間、崇史は理解した。

…智彦は、きっとこうなると予想していたに違いない。

恋人を失い、親友に裏切られ…智彦は死に等しい眠りにつくことを選んだのだ。

後悔と悲しみが津波のように激しく、そして恐るべき速さで襲ってきた。

「俺が、智彦を殺したんだ」

叫びが喉の奥からほとばしり出た。

 

 

第十章 帰還

★SCENE10(現在)

智彦の事故の後、崇史もまた記憶を改編した。

後悔に押しつぶされそうな日々から逃げ出すためには、そうするしかなかった。

こうして、崇史の過去の記憶は封印されたのだった。

 

事故後、バイテック社の最優先事項は智彦と篠崎の救出に定められた。

どうすれば「スリープ状態」を解除できるのか?

それを知るには智彦だけが知る研究データが必要だった。

しかし、どこを探してもデータは見つからない。

※智彦の部屋が荒らされていた理由

智彦は何らかの形でデータを残しているはずだが…。

 

バイテック社にとって3例目の記憶改編被験者である崇史は、いつどんな状態になるかわからない。

そのため、崇史は常にバイテック社から監視されるようになった。

「麻由子と同棲している」という設定は、監視者の1人である麻由子を常にそばに置いておくためのもの。

須藤は「麻由子自身が崇史のそばにいることを望んだ」と言うが、慰めにはならなかった。

麻由子が監視者だったという事実は変えられない。

 

やがて、崇史は記憶を取り戻し始めた。

世紀の発見たる記憶改編技術も、まだまだ完全なものではなかったらしい。

智彦が「データ」を誰かに渡していたとしたら、その相手は崇史である可能性が高い。

このまま崇史が記憶を取り戻していけば、あるいは「データ」の在り処がわかるかもしれないとバイテック社は期待した。

とはいえ、事は慎重に進めなければならない。

記憶を無理に思い出させようとすれば、脳に過剰な負荷がかかり、崇史がどうなってしまうかわからない。

※崇史が頻繁に昏倒したのはこのため

あくまで崇史には自然に、かつ自力で記憶を取り戻してもらわなければならなかった。

そのため、バイテック社は要所要所で須藤を、智彦の両親を、そして麻由子を崇史から遠ざけた。

そうして今、崇史は自力ですべての記憶を取り戻し、ここにいる。

 

記憶を取り戻した今、崇史には智彦の『データ』の在り処について見当がついていた。

最後に渡された、麻由子の写真が入ったケース。

ケースを開けてみると、予想通りマイクロディスクが入っていた。

崇史はディスクを須藤に渡すと、一緒に入っていた手紙を開く。

読み進むうちに目の奥が熱くなってくる。

崇史は久しぶりに熱い涙を流した。

手紙の文字が滲んだが、何度も読み直した。

 

 

智彦からの手紙

『去年の秋から僕は二つのことに悩んできた。一つは篠崎君のこと、もう一つは麻由子のことだ。

篠崎君にはとても悪いことをしてしまったと思っている。研究を進めたい一心で、安全性を考慮せず、貴重な将来を奪ってしまった。自分の身を犠牲にしてでも、彼を救うのが義務だろうと思う。

麻由子については、早くあきらめよう、とずっと思ってきた。彼女の気持ちが、崇史のほうに向いていることに、以前から気づいていたからだ。だけどどうしても、あきらめきれなかった。彼女のような女性とは、もう今後一生出会うことはないだろう。出会えたとしても、彼女のように僕のことを好きになってはくれないだろう。

この二つの悩みを抱えて、ここ数カ月を過ごしてきたけれど、ついに僕は両方を同時に解決する方法を見つけだした。自分が実験台になって篠崎君の事故の再現実験を行うんだ。この結果を参考に、須藤さんたちは篠崎君を救う方法を開発するだろう。そして僕が少々長い眠りについている間に、崇史と麻由子は結ばれればいい。僕の計算によれば、僕の記憶改編は行われているはずだ。目覚めた時には、心の底から君たちを祝福できるだろう。

僕が気になるのは、崇史の気持ちの方だった。君の麻由子への気持ちをどうしても確認したかった。それでわざと君を不愉快にさせるようなことを言った。その点については謝りたい。でも君が本当に彼女を愛していると知って安心した。どうか僕の代わりに彼女を幸せにしてあげてほしい。

記憶改編システムは、まともに扱えばトラブルは起きない。これは僕の希望だけど、君たちもこの一年の記憶を変えてくれないだろうか。そうすれば、また昔のように付き合える。

たとえこの一年の過去を変えたとしても、僕たちの友情には影響ないのだから。

目覚めた時に会おう。それまでさようなら』

 

息苦しいまでの感動と自責の念が崇史の胸に溢れていた。

智彦は最後の瞬間まで友情を保とうとしていたのだ。

それに比べて自分は…悲しみや苦しみから逃れるために記憶改編の道を選んだ。

「俺は…弱い人間だ」

麻由子は崇史の手をとると、涙で潤んだ目を向けて言った。

「あなた、あの時にもそういったわね」

記憶の中のラストシーンが、崇史の心のスクリーンに映し出されていた。

 

 

LAST SCENE(結末)

記憶改編を受ける寸前になっても、崇史はまだ悩んでいた。

この心の痛みを忘れてしまっていいのか?

親友を裏切り、その恋人を奪おうとしたから、こんなことになってしまった。

ならば、この痛みを抱えたまま生きていくべきなのではないか?

「まだ迷ってるの?」

麻由子が言った。

「こういうやり方が正しいとは思えない」

「何に対して正しくないの?」

「さあ、自分に対して、かな」

麻由子は首を横に振った。

「自分なんてないのよ。あるのは、自分がいたという記憶だけ。みんなそれに縛られてる。あたしも、あなたも」

「つまり記憶を変えるということは、自分を変えるということだ」

「変えてほしいのよ。自分を。あたしも変えるから」

崇史は被験者椅子に座った。頭に装置が取り付けられる。

「最後に一つ訊いておきたい」

「なに?」

「あの時君は、向こうの電車から、俺のことを見ていたんだろう?」

麻由子は瞬きを一度、ゆっくりとした。

「見ていたわ」

「やっぱり…。それを訊いておきたかった」

いよいよ記憶改編が始まる。最後の瞬間、崇史は麻由子に言った。

「俺は弱い人間だ」

麻由子は目を伏せ、少しの間黙っていた。

やがて顔を上げた彼女のまつげは濡れていた。

「あたしもよ」

装置が起動する。

崇史は眠るように意識を失っていった。

<パラレルワールドラブストーリー・完>

 

※いろいろと思うところがあったので感想を別記事にまとめました。特に「この結末の後どうなったの!?」と思った方はぜひご覧ください!(感想は記事後半にあります)

映画「パラレルワールド・ラブストーリー」ネタバレ解説!感想も!東野圭吾「パラレルワールド・ラブストーリー」が映画化!https://youtu.be/jSqmag5K9O0玉森裕太さ...

 

まとめ

今回は東野圭吾「パラレルワールド・ラブストーリー」のあらすじ・ネタバレをお届けしました!

改めてまとめてみると、この小説のトリックはこんな感じでしたね。

・「パラレルワールド」は登場しない。2つの世界の関係は「過去」と「現在」

・現在の主人公は記憶を変えられていたが、少しずつ正しい記憶を思い出していく。

・記憶を思い出そうとしている主人公がいるのが「現在編」で、思い出されていく記憶の出来事が「過去編」

読んでいくとすぐに「2つの世界には約1年のタイムラグがある」ということに気づくので、おそらく読者の多くが割と早い段階でこのトリックに気づいたのではないでしょうか。

一方で、あの結末まで予想できた人は少なかったはず。

自己犠牲の精神を思う存分発揮した智彦のおかげで美談っぽい雰囲気も漂っていますが、冷静に考えるとめちゃくちゃ『イヤミス』なラストですよね。

とても「ハッピーエンド」とは言えません。

かといって、じゃあ誰か悪者がいたのかというと…そうとも言い切れないし…。

ちょっとだけ「もやもや感」の残る結末でした。

 

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※配信情報は2020年6月時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。

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