小説「予告殺人」はアガサ・クリスティー作品のなかでも特に人気の高い作品です。
今回はアガサ代表作の1つ「予告殺人」のあらすじネタバレをわかりやすくお伝えしていきます!
あらすじ
「殺人予告お知らせ申し上げます。本日午後六時三十分より、リトル・パドックス館にて。お知り合いの方のお越しをお待ちします」
小さな田舎町のローカル新聞。その個人広告欄に掲載された奇妙なメッセージは、退屈な住民たちを大いに面白がらせた。
きっと犯人当てを楽しむ流行りの《ゲーム》が催されるに違いない。
人々はそう考えて、リトル・パドックスの応接間に集まった。
そして、午後六時三十分。
電気がふっと消えたかと思うと、ドアを乱暴に開けて入ってきた男が叫んだ。
「手をあげろ!」
……ははあ、いよいよ《ゲーム》が始まったのだな。
人々のクスクス笑いは、本物のピストルの発砲音によってかき消された。
1発、2発、そして3発。
これは《ゲーム》ではなかったのか?
暗闇の中、いったい今はどうなっているのか?
混乱と恐慌。
やがて部屋に光が戻ったとき、人々は倒れ伏した死体を目撃する。
絶命していたのは、侵入者である強盗の男だった。
近くにはピストルが落ちている。
暗闇の中、転んで自分を撃ってしまったのだろうか?
状況的には、そう判断せざるを得ない。
しかし、もし、そうではないとしたら……?
登場人物
★リトル・パドックスに集った人々(容疑者)
レティシア・ブラックロック(レティ)
リトル・パドックス館の女主人。
60歳前後の老婦人。
1,2発目の発砲で耳に怪我を負った被害者。
ドラ・バンナー
レティシアの旧友。行く当てがないところをレティに拾ってもらった。
うっかり屋の老婦人。
パトリック・シモンズ
レティシアの遠縁の従弟。いたずら好きの青年。
ジュリア・シモンズ
レティシアの遠縁の従妹。
パトリックの妹。皮肉屋。
フィリッパ・ヘイムズ
若く美しい未亡人。リトル・パドックスの下宿人。
ミッチー
リトル・パドックスのメイド。被害妄想が激しい。
イースター・ブルック大佐
心理学者
ローラ・イースターブルック
その妻
エドマンド・スウェッテナム
文学青年
スウェッテナム夫人
エドマンドの母
ヒンチクリフ
養鶏業者
マーガトロイド
養鶏業者
ハーモン夫人
牧師ジュリアン・ハーモンの妻
★亡くなった謎の強盗
ルディー・シャーツ
ホテルで働く小悪党。
★探偵
クラドック警部
事件の謎を探る刑事。
ジェーン・マープル
これまでいくつもの謎を解き明かしてきた『ただの老婦人』
※「マープル」シリーズでは探偵役としてお馴染み
ネタバレ
真犯人の存在
警察上部から協力を求められたマープルは、すぐに事件の違和感に気がついた。
小金をちょろまかすような小悪党であるルディーが、果たして強盗を企てるだろうか?
それに
1.金持ちばかりのホテルの客ではなく、金目のものなどないリトル・パドックスを狙ったこと
2.わざわざ自分で広告を出して村の人々を集めたこと
これらの行動の真意がわからない。
クラドック警部がまとめた事件記録を読みながら、マープルはつぶやく。
「ルディーは広告を出し、事件の夜にはマスクと黒衣を身にまとい、ドアを押し開き、懐中電灯を振り回しながら『手をあげろ』と叫ぶ……」
「そしてピストルをぶっ放す」
クラドック警部の合いの手を、マープルは穏やかに否定した。
「ちがいます。あの男は、ピストルなんか持っちゃいませんでしたわ」
クラドック警部は息を呑んだ。
誰もが「強盗が銃を撃った」と証言したが、実際にはその時、部屋の中は真っ暗だったのだ。
つまり、誰も本当にはルディーが銃を撃つところなど見てはいない。
マープルはさらに、一同を驚かせる推理を続ける。
「彼が『手をあげろ』と叫んだあとで、真っ暗な中を誰かが彼の背後に近寄ってきて、肩ごしに2発撃ったと思うのです。彼はびっくり仰天しました。驚いた彼は一回転する。そうした時に誰かが彼を撃つ。そしてピストルを彼のそばに落としたのです」
マープルの推理が正しいとすれば、真犯人は応接間の『外』にいた人物ということになる。
ところが、応接間にあるもうひとつの『開かずの扉』が実は誰にでも開けることが可能だったと判明したことで、事態は一転!
応接間の『内』にいる人間にも犯行は可能だった!
↑真犯人は応接間から強盗の背後に回り、レティに向けて2発撃った後、強盗を撃つ。そして何食わぬ顔で応接間に戻った。
犯行方法(How done it)は判明した。
しかし、まだ犯人(Who done it)と犯行動機(Why done it)はさっぱりわからない。
【Point】
・ルディー(強盗)の持つ懐中電灯の光に目を奪われていたため、人々は真犯人が応接間を出入りしていることに気づけなかった。
・ルディーのガールフレンドが「彼は頼まれて強盗のふりをしに行くだけだと言っていた」と証言。
犯行動機
レティシアはかつて億万長者ランダル・ゲドラーの秘書だった。
そして、ランダルをよく助けたレティシアには、実はその巨万の遺産を相続する権利があった。
ランダル亡き今、遺産を相続しているのは妻のベル・ゲドラーだ。
ところが、ベルは病気で余命一か月もないという。
つまり、このまま時が経てばレティシアはベルに次ぐ相続人として莫大な財産を得ることになる。
その場合、そのまた次の相続人はレティシアが指定した誰かだ。
では、もしもベルよりも先にレティシアが亡くなった場合は?
その場合、遺産はゲドラーとは縁を切った妹・ソニアの双子の子ども(ピップとエンマ)に継承される。
つまり、ピップとエンマにはレティシアの命を狙う動機がある。
また、その恩恵を間接的に受けられるソニアとその夫スタンフォーディスにも動機があると言える。
問題は、ピップとエンマが村の誰かであってもレティシアにはわからないということだ。
同様に、正体を隠したソニアやスタンフォーディスが住民の中にいる可能性もある。
【Point】
・真犯人は応接間にいた人物である。
・真犯人の正体はピップとエンマ(あるいはどちらか片方。あるいはその関係者)である可能性が高い(NEW!)
・ピップとエンマの年齢と近い容疑者はパトリック、ジュリア、フィリッパ、エドマンド。しかし、その配偶者や両親が真犯人である可能性もある以上、年齢では真犯人を特定できない。なお、ピップとエンマの性別は不明。双子の容姿が似ているとは限らない。
真犯人の魔の手
真犯人の狙いが遺産のためにレティを葬り去ることだとすれば、事件はまだ終わっていない。
一度目で失敗した真犯人は、きっと再びレティの命を狙ってくるはずだ。
みなが凶悪犯に怯える中、はたして事件は起こった。
レティの薬瓶の中身が毒物にすり替えられていたのだ。
そうとは知らずに薬を飲んだのは、たまたま自分の薬(アスピリン)をなくしていたドラ・バンナー。
結果、レティの身代わりとなる形でドラが亡くなった。
再び犯行に失敗した真犯人だったが、その魔の手は留まることを知らなかった。
三人目の被害者となったのは、養鶏業者のマーガトロイド。
最初の事件の夜、立ち位置の関係で彼女だけは強盗の懐中電灯に目をくらまされず、応接間の様子を目撃していた。
そして後日、ヒンチクリフとの『探偵ごっこ』の中で、彼女はふいに《重要なこと》を思い出した。
「彼女はそこにいなかったわ」
マーガトロイドがヒンチクリフにそう告げたのは、ちょうどヒンチが出かける時だった。
そして、ヒンチが帰ってきたとき、マーガトロイドは何者かによって絶命させられていた。
ヒンチクリフとマーガトロイドの『探偵ごっこ』を立ち聞きしていた真犯人の手によるものだろう。
結局、マーガトロイドが告げた『彼女』が何者かは謎のまま……。
ピップとエンマの正体
クラドック警部はパトリックとジュリアこそがピップとエンマではないかと睨んでいた。
ハーモン兄妹は年齢的にも双子に近かったし、遠縁の親戚なのでレティとは最近まで面識がなかったからだ。
結論からいえば、警部の直感は半分だけ当たっていた。
これまでジュリア・ハーモンだと思っていた人物こそエンマだったのだ。
時は数か月前にさかのぼる。
貧しい暮らしに苦しんでいたエンマは、レティシアに取り入って遺産の一部を恵んでもらおうと考えていた。
そんなとき、エンマはたまたまパトリックと出会う。
エンマが事情を話すと、パトリックは彼女に「妹として一緒にリトル・パドックスに行かないか?」と(下心から)提案。
こうして、エンマは偽物のジュリアとなった(レティに気に入られて遺産を恵んでもらうため)
これまで黙っていたのは、自分が犯人扱いされるのを恐れていたから。
ところが、本物のジュリアからリトル・パドックスに手紙が届いたことで、秘密はあっさりと露呈した。
ジュリアことエンマは犯行を否定。
また、彼女はソニアやピップの消息については知らないという(双子が幼いころに両親は離婚。エンマは父親に引き取られた)
それから間もなく、ピップの正体も明らかになった。
ピップの正体はフィリッパ・ヘイムズ。
彼女の場合も、経緯はだいたいエンマと同じ。
息子の教育費のために、レティから遺産の一部を分けてもらおうという考えだった。
ただ、エンマと違う点は、彼女は事実レティに気に入られてレティの遺産相続人に指名されていることか(指名は最初の事件よりも後)
フィリッパことピップもまた犯行を否定した。
かねてより疑わしかったピップとエンマの正体が明らかになった。
とはいえ、幼いころに生き別れた二人はお互いの正体に気づいていなかったし、両者とも犯行を否定している。
本当に彼らが犯人なのだろうか……?
真犯人と本当の犯行動機
真犯人はレティシア・ブラックロック。
彼女こそルディー、ドラ、マーガトロイドの3人を手にかけた犯人だった。
では、その犯行動機は?
マープルとクラドック警部がたどり着いたのは、驚くべき真相だった。
すなわち、彼女の正体はシャーロット・ブラックウッド(亡きレティの妹)だったのだ!
話は数十年前までさかのぼる。
ランダル・ゲドラーの秘書として働いていたレティは病気の妹(シャーロット)の面倒を見るため職を離れた。
その後、妹シャーロットは病死したとされていたが、実は亡くなっていたのは姉レティシアの方だった。
死因は肺炎。
一方のシャーロットはスイスでの手術が成功していて、病気は治っていた。
病で姉が亡くなったとき、シャーロットはこう考えた。
「このままではランダルの遺産の相続権が消えてしまう!」
そうして、シャーロットは姉レティシア・ブラックウッドとして生き始めた。
幸い、姉のそれまでの人生については頻繁に送られてきていた手紙で知っていた。
そして、引きこもっていたシャーロットにはおよそ友人知人の類はいない。
あとは誰も知らない土地……チッピング・クレグボーン村(事件が起こった村)に引っ越してしまえば、正体がバレることもない。
シャーロットは問題なくランダル・ゲドラーの遺産を手に入れられる……はずだった。
それから数十年後。
もうすぐランダルの遺産が手に入るという今になって、シャーロットは彼女の正体を見抜ける《天敵》に出会ってしまった。
ルディー・シャーツだ。
かつてスイスで看護人をしていたルディーは、患者だったシャーロットのことをはっきりと覚えていた。
だから、ホテルでシャーロットを見かけたルディーは「シャーロット・ブラックウッドさんですよね。懐かしいなあ」と声をかけた。
……それが惨劇の引き金になるとも知らずに。
ルディーに「あれはレティシアではなくシャーロットだ」と口外されようものなら、すべては水の泡だ。
ランダルの遺産は手に入らず、これまでシャーロットが重ねてきた努力の年月も無駄になってしまう。
では、ルディーは秘密を守ってくれるような男だろうか?
答えはもちろん「No」だ。
それどころか、ルディーに弱みを握られようものなら口止め料として永遠に金をせびられるに違いない。
※事実、ルディーは一度シャーロットに金の無心をしている。
ならば、残された道はひとつだけ。
……ルディーを始末するしかない。
シャーロットはルディーに『ゲームの強盗役』を頼んだ。
これを引き受けたルディーは自ら新聞広告を出し、当日の午後六時三十分になるとリトル・パドックスの応接間に押し入った。
「手をあげろ!」
このとき停電していたのは、シャーロットがあらかじめ剥き出しにしていたランプのコードに花瓶の水を落としてヒューズを飛ばしたから。
※ランプが新しいものに変わっていたこと。花瓶の花が枯れていたことはこの伏線。
この後の手順は以下の通り。
1.油をさしていた『開かずの扉』から出てルディーの背後に回る。
2.さきほどまで自分が座っていたあたりの壁に2発、ルディーに1発、銃弾を撃ち込む。
3.ピストルを倒れたルディーの近くに置き、自分で耳たぶを傷つけて出血させる。
あとは再び『開かずの扉』から応接間に戻り、何食わぬ顔で明かりが戻るのを待っていたというわけだ。
次に、第二の事件について。
ドラ・バンナーはシャーロットの分の薬が毒にすり替えられているとも知らず、それを飲んでこの世を去った。
薬を毒にすり替えたのは……もちろんシャーロットだ。
では、なぜシャーロットはドラを始末したのだろうか?
実のところ、シャーロットは親愛の証としてドラにだけは正体を打ち明けていた。
ところが、ドラはだんだんボケ始めてきて、彼女の秘密をいつ漏らすかわからないような状態になってしまった。
※ドラは何度か「レティ」ではなく「ロティ」と彼女のことを呼んだ。それは言い間違いではなく、シャーロットの愛称をうっかり口にしてしまっていたため。
だから、シャーロットはドラの口を封じるために、その息の根を止める決断を下した。
シャーロットはドラのことを友人として愛していたため、ドラが亡くなったときには心の底から悲しんだ。
亡くなる前日にドラの誕生日パーティーが催されたのは、せめて最後に幸せな思い出をつくってあげたいというシャーロットの思いやりから。
もともと余命が短かったドラを幸福なまま永遠に眠らせることは『いいこと』に違いない、とシャーロットは自分に言い聞かせた。
最後に、第三の事件。
シャーロットはたまたまヒンチクリフとマーガトロイドの《探偵ごっこ》を立ち聞きしていた。
自身の秘密を守るため、シャーロットは衝動的にマーガトロイドの首を絞めて絶命させた。
以上。
【Point】
シャーロットは最初からフィリッパ・ヘイムズの正体がピップだと気づいていた。
そのうえで、シャーロットはフィリッパを家族のように愛し、遺産まで残すことに決めた。
それは罪を犯してしまった後ろ暗さを埋め合わせるための行為だったのかもしれない。
シャーロットがソニアの容姿について嘘を言ったり、アルバムからソニアの写真を抜いたりしたのは、警察からフィリッパを守るためだった。
※フィリッパは母親のソニアによく似ていた。一方、ジュリアは似ていなかった。
結末
真相を察したクラドック警部とマープルは一芝居打つことにした。
メイドのミッチーに「実は私はレティシアがピストルを持ってルディーの背後にいたのを見ていた」と発言させたのだ。
罠にかかったシャーロットは考えなしにミッチーを始末しようとしたところを、待ち構えていたクラドック警部にあえなく現行犯逮捕された。
これにて事件は幕引き。
ベル・ゲドラーの没後、遺産はフィリッパ(ピップ)とジュリア(エンマ)のものとなった。
余談だが、フィリッパはエドマンドと再婚し、チッピング・クレグボーン村に新居を構えた。
新婚旅行から帰ってきた2人は新聞屋にこう告げた。
「(殺人予告が載っていた)ギャゼット新聞はいらない」と。
<予告殺人・完>
まとめ
今回はアガサ・クリスティ「予告殺人」のあらすじ・ネタバレをお届けしました!
まさか命を狙われているはずのレティシア(シャーロット)が真犯人だったとは……!
読み返してみると『レティシア = シャーロット』のヒントとなる伏線がちゃんと張られているのですが、初見時には全く気がつきませんでした。
※「たまにドラがレティのことを『ロティ』と呼んでるな~」とは思っていたのですが、完全にスルーしてました。
そこにさえ気づければあとは簡単なのですが、すっかり「ピップとエンマ」に気を取られていて、レティシアが犯人だなんて考えもしなかったんですね。
今にして思えば、あれは本筋に見せかけた巧妙なミスリードだったわけですが……やられました。
今回は重要な部分だけ抜き出してご紹介しましたが、原作ではもっと伏線やヒントがぎっしり詰め込まれていて読み応え抜群なので、未見の方は機会があればぜひお手に取ってみてください。
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ドラマ見終わって、このサイトに辿り着きました。
原作ファンからは色々と不満があるドラマ構成だったようですが、
こうして原作解説を読んでみると
ほぼ原作通りに作られている事が分かりますね。
第2の殺人と第3の殺人の順番が逆だったくらいでしょうか?
ですね!
ドラマ版はストーリー的には原作に忠実という印象でした。
銃で撃たれて? 耳やられたという時点で
怜里を疑いました
そして ドラ 頭痛いと言っていたけど
じつは 耳が痛い つまり銃を撃った
共犯かと思っていました
あだ名で呼ぶの 日本語 無理があって
そこが残念だと思いました 原作知っている人向けだと思いました
ロリィって呼び間違えていて 怜里=ロリィだとおもいました
あだ名の仕掛けはほとんど叙述トリックなので、ドラマではやっぱりちょっと無理がありましたよねえ。