本格ミステリ

薬丸岳「死命」のあらすじネタバレと感想!結末のラスト1行がすごい!

『刑事も殺人犯も余命わずか』

そんな斬新な小説「死命」を読みました。

犯人も刑事も末期がん患者なので、どんどん体を動かせなくなっていきます。

それでも犯行を続けようとする犯人と、それでも犯人を追い続ける刑事。

いったい何がそこまで2人を駆り立てるのか?

終盤で明かされる『理由』は必見です!

というわけで今回は薬丸岳「死命」のあらすじネタバレと感想をお届けします!

結末のラスト1行はお見逃しなく!

ぱんだ
ぱんだ
とはいえ、ラストだけ読んでも意味わかんないよ
わかたけ
わかたけ
最後までゆっくりとお読みください

主な登場人物

【榊信一】
33歳。若くして成功したデイトレーダー。聴力がほとんどなく、補聴器をつけている。

【山口澄乃】
33歳。バツイチ。かつての恋人である榊信一と再会し、惹かれていく。榊に隠している秘密がある。

【蒼井凌】
53歳。捜査一課の刑事。妻の由美子には先立たれている。

【蒼井瑞希】
20歳。蒼井の娘。ダンサー。危篤の母より仕事を優先した父を冷めた目で見ている。

【蒼井健吾】
高校2年生。蒼井の息子。

【矢部知樹】
28歳。刑事課に異動したばかりの新米刑事。蒼井とコンビを組む。

小説「死命」は榊・澄乃・蒼井・矢部の4人の視点から描かれています。

群像劇的な感じですね。4人全員が主人公のようにも思われます。

あらすじネタバレ

末期がんで余命わずか。

そう宣告されたとき、榊信一は「やっと解放された」と思った。

長く生きられないのなら、もう我慢する必要はない。

『女を殺したい』

己のうちにひそむ欲望を抑えつける必要は、もうないのだ。

二重生活【side:信一】

その日から信一は二重生活を始めた。

表の顔は『残された時間を恋人とわかちあう幸福な男』

かつての恋人である澄乃とよりを戻した信一は、本当に、心の底から幸せだった。

しかし、だからといって信一の《衝動》は止まらない。

信一の裏の顔は『連続殺人事件の犯人』

最終的に、信一は3か月で6人もの女性を手にかけた。

性交中に首を絞めて絶命させる。

信一はその方法にこだわったが、なぜそうするのかは自分でもわからなかった。

信一は常々こう思っていた。

残された時間、できるだけ多くの女の首に手をかけ、欲望を満たし続けたい。

しかし、澄乃にだけは自分の本性を知られたくない。

たとえ自分の命が尽きた後だとしても、裏の顔がバレて澄乃から軽蔑されるのは耐えられない。

だから、目指すのは完全犯罪だ。

警察に捕まらないよう、慎重に事を進めなければならない……。

犯行を隠すため、信一はどこでも見かけるような国産車と広い敷地の豪邸を購入した。

絶望【side:蒼井】

末期がんで余命わずか。

そう宣告されたとき、蒼井凌は絶望した。

(……俺が、死ぬ?)

一瞬で心が恐怖に支配される。

(嫌だ。まだ生きていたい)

いくら願っても現実は変えられない。

(それに子どもたちは……)

蒼井の妻・由美子はすでに他界している。

両親とも失ってしまう子どもたちはどうなる?

瑞希は20歳。健吾に至ってはまだ高校二年生なのに……。

執念【side:蒼井】

「入院して、残されたわずかな時間を家族と一緒に過ごすべきだ」と医師が言う。

しかし、蒼井は最期まで刑事として犯人を追う決意を固める。

ただでさえ残り少ない寿命をさらに縮めることになっても構わない。

なんとしてでも、あの忌まわしい連続殺人事件の犯人をこの手で捕まえてみせる。

そんな父の姿に、瑞希は「またか」と落胆した。

またか。また家族よりも仕事をとるのか。

あの時、危篤の母より犯人逮捕を優先したように。

やっぱり父にとって自分たちはその程度の存在でしかないのか……。

不審【side:澄乃】

信一の様子がおかしい。

夜になるとこっそり家から出ていくし、ときどき発作を起こしたように苦しみだすことがある。

……もしかして、自暴自棄になって危ない薬にでも手を出しているのでは?

心配になった澄乃は家の中にクスリが隠されていないか探し回った。

「これは……?」

信一の部屋から見つかったのは不動産の売買契約書。

信一はなんと3億円もする豪邸を買っていた。

(いったい、何のために?)

不審に思った澄乃は予備の鍵を持って信一の別邸へと向かった。

閑静な一等地の中でも特に大きな豪邸からは、信一が連続殺人犯であることを示す証拠が見つかった。

被害者の運転免許証。

これを持っているのは犯人しかいない。

「そんな……」

警察に通報するべきか。

それとも何も見なかったことにするべきか。

お腹の中にいる信一との子どもはいったいどうなってしまうのか?

過去【side:澄乃】

信一を狂わせてしまった原因は自分にあるのかもしれない、と澄乃は思った。

子供の頃の話だ。

澄乃が暮らす新潟県の港町(寺泊)に、信一が両親と一緒に引っ越してきた。

信一の父親は働きもせずにふらふらと女遊びしてばかりのクズ男。

家の中では信一や信一の母親に暴力をふるっていた。

ある日のこと。

使われていない小屋で遊んでいた信一と澄乃は、たまたま男女の性行為を目撃する。

男は信一の父親で、女は澄乃の姉だった。

まだ小学五年生だった澄乃と信一の目に、その光景はおぞましく汚らわしいものとして映った。

「お願いだから、誰にも言わないでほしい」

2人が出ていった後、信一は澄乃に言った。

このことが知れれば、お互いの家庭が崩壊する。

幼い2人にもそれは理解できた。

しかし、やがて澄乃は耐えられなくなった。

信一の父親と澄乃の姉の関係が一度きりのものではなく、いつまでも続いていたからだ。

どうにか穏便に問題を解決してほしいという思いから、澄乃は穏やかそうな信一の母親にだけ真実を告げた。

その結果、あんなことに……。

その後、信一の父親は澄乃の姉と町を出ていった。

信一は母親とともに引っ越していった。

信一が寺泊にいたのは、小学5年生の1年間。

その後の事故の影響か、信一は澄乃と過ごした寺泊での記憶を失っている。

信一の記憶が戻らなければいい、と澄乃は思う。

あのとき約束を破って信一の母親に夫の浮気を教えてしまったばっかりに、信一は不幸のどん底に叩き落されてしまったのだから。

すべては澄乃の裏切りのせい。

信一がこんな事件を起こしてしまったのも、もとはといえば自分のせいだと澄乃は思った。

澄乃が信一の母親に告げ口したことで、信一の身に何が起こったのか?

この謎は終盤まで隠され続けます。

事故【side:澄乃】

迷った末に、澄乃は警察に電話をかけた。

「はい。こちら日暮里署捜査本部です」

「あ……」

決心したはずなのに、いざとなると言葉が出てこない。

それでも言わなければならない。

どんなに悲しくても、どんなに辛くても。

「あの……」

澄乃が口を開いた、その時だった。

耳をつんざくクラクションの音。

激しい衝撃に体が吹き飛ぶ。

交通事故。

電話に集中していた澄乃は、気づかずに赤信号を渡っていた。

軽い事故ではない。

みるみるうちにアスファルトに血が広がっていく。

「どうしました……! 何があったんですか……! 大丈夫ですか!」

電話から警官の声が聞こえる。

もう助からないと悟った澄乃は、最期の気力を振り絞って警官に遺言を残した。

「――――と、あの人に伝えて……」

その後、お腹のなかの子どももろとも山口澄乃は帰らぬ人となった。

刑事の勘【side:蒼井】

捜査本部で澄乃の電話をとったのは蒼井だった。

(山口澄乃はなぜ捜査本部に通報してきたのか?)

妙に気になった蒼井は、澄乃の交友関係について調べてみることにした。

浮き上がってきたのは、恋人である榊信一という男の存在。

身長180cm、やせ型、耳が不自由。

信一の身体的特徴は警察が血眼になって追っている犯人の人物像と一致している。

証拠はない。

しかし、蒼井の刑事の勘が「この男は怪しい」と告げている。

蒼井は捜査本部の意向を無視して、榊を監視することにした。

この時点でがん宣告から約2か月が経過しています。

榊も蒼井もすでに末期患者であり、歩くことすらままならない状態です。

2人とも缶のプルタブすら開けられないほど衰弱しています。

記憶【side:信一】

信一は女を手にかけるたび、失われた寺泊での記憶を取り戻していく。

澄乃の喪失に絶望した信一は、せめて記憶の中の澄乃に会いたいと考えるようになる。

標的は決まっている。

大学時代のサークルメンバーである綾子だ。

よりにもよって澄乃の骨壺の写真を送ってくるなんて許せない。

もとより信一は明らかに金目当てで近づいてくる綾子のことが嫌いだった。

ちょっとエサをちらつかせただけで、綾子はあっさりと信一を部屋に上げた。

綾子は末期症状でうごけない信一のうえにまたがると、自らあさましく腰を動かす。

(この、クソ女……!)

憎悪に突き動かされて綾子の首に手をかけようとした、その時。

信一の目の前に記憶のなかの光景が鮮明に浮かびあがった。

カーテンの隙間から、幼い澄乃がこちらを見つめている。

そのとき、信一は……。

(全部、思い出した……!)

信一は綾子を押しのけるとすぐにアパートを出た。

「澄乃……やっとわかったよ……自分の使命が……」

真相【side:信一】

信一が取り戻した記憶。

それは実の母親から性的に虐待されていたという忌まわしい過去だった。

手錠をかけられ身動きが取れない信一の上で、母親が叫び声をあげながら動いている。

恐ろしさのあまり目をそらした信一が見たのは、カーテンの隙間からこちらを見ている澄乃の姿だった。

……寺泊での記憶をなくしていたのは、事故の影響というよりショックのあまり自ら記憶を封印していたのかもしれない。

信一の使命。

それは実の母親を殺すことに他ならない。

澄乃との恋も、信一の人生も、すべてあの女に破壊されたのだから。

母親が信一を虐待するようになったのは、澄乃から夫の浮気を聞かされたから。

この件で澄乃と信一はお互いに相手に対する《負い目》を感じていました。

大学時代、2人が結婚することなく別れたのも《負い目》のせい。

信一にとって本当に憎むべき敵は、DV男の父親ではなく、母親の方だったんですね。

信一の狂気的な欲望は母親への憎しみが源泉。

犯行はそれが歪んだかたちで表出したものだと解釈できます。

追跡【side:蒼井】

榊信一が消えた。

蒼井は力をふり絞らなければ一歩進むことさえままならない体で後を追う。

目的地は新潟県・寺泊。

母親を拉致した信一が何をしようとしているのかは想像に難くない。

急がなければ、また被害者を出してしまう……!

決着【side:矢部】

蒼井の指示で向かったのは港にある使われていない小屋。

その前に探し求めている車を見つけて、矢部は息を呑んだ。

蒼井は胃のあたりを手で鷲づかみしながら苦しそうに身をよじっている。

容態はひどくなる一方だ。とても動ける状態じゃない。

矢部は蒼井をその場に残して足早に小屋に近づくと、ためらわずに扉を開けた。

驚愕したような顔で男がこちらを振り返る。

男の下には人影があった。

「やめろーッ!」

男に飛びかかる矢部。

しかし、逆に太腿をナイフで刺されてしまう。

男はそのまま人影にナイフを振り下ろそうとするも、遅れてきた蒼井の体当たりで倒れ込む。

薄暗い中で四人の人間が重なり合ってもつれた末に、男は窓を突き破って逃走した。

人影に目を向ける。どうやら無事なようだ。

「警察に通報してくれ」

蒼井は目の前でしゃがみ込むと、わき腹から手を離して矢部の上着のポケットを探った。

手錠をつかむと立ち上がってふらふらと出て行く。

「蒼井さん!」

後を追おうにも、矢部は太腿を刺されていて満足に動けない。

矢部は警察に通報すると、ネクタイで太腿をきつく縛ってゆっくりと小屋から出た。

「蒼井さん!」

大きな声で呼びかけながら暗闇の中を探し回ったが、まったく応答がない。

それでも蒼井の名前を叫びながら懐中電灯の明かりをあたりに向けていると、道路と浜をまたぐ階段に折り重なるように倒れたふたつの人影が見えた。

矢部は太腿の痛みも忘れて階段に駆け寄った。

榊信一が荒い息を吐きながら必死に階段を這い上がろうとしている。

蒼井は信一の足をつかむように倒れていた。

「蒼井さん! 大丈夫ですか……」

肩をゆすりながら呼びかけたが、蒼井は反応を示さない。

わき腹のあたりから血があふれている。

金属がすれる乾いた音に矢部は目を向けた。

手すりのパイプにかけられた手錠のもう片方を目で追う。

信一の足首にかけられていた。

報い【side:蒼井】

あの後、蒼井と信一はすぐに病院に運び込まれた。

今は同じ病院に入院している。

信一は容疑を認め、淡々と犯行を供述するも、反省の色はなし。

その様子を聞いた蒼井は、信一と話をしてみることにした。

「どうして六人もの人の命を奪ったんだ。病気になったこと以外は満たされた人生を送っていただろう。優雅な暮らしをして、優しい友人に囲まれ、恋人もいた。自分の命があとわずかだと知らされて自棄にでもなったか」

「自棄になったわけじゃないですよ。ぼくは自分の命をの終わりを知らされたから、人を殺すという最大の快楽を味わうことができた。本当に楽しい三か月だった。今まで生きてきた三十三年がクソみたいに思える、本当に濃密な時間だった」

信一はうっとりとした顔でそう語った。そして蒼井に憐みの視線を向ける。

「あなたは今でも死を恐れているでしょう。それはあなたが本当の意味で生きていなかったからだ。自分を偽るように生きてきたからだ。だけど、ぼくは違う。ぼくは自分の欲望に正直に生きてきた。この世に思い残すことはない。だから死ぬことなんかこれっぽっちも怖くない」

信一はもうすぐこの世から去る。

後悔もなく、罰を受けることもなく。

いわば勝ち逃げだ。

目の前で嘲笑うこの男に報いを与えることはできないのか。

そう考えた瞬間、蒼井は閃いた。

目の前の男が恐れるものは、もしかしたら……。

「ひとつだけ言っておかなければならなかったことがある、山口澄乃からの伝言だ」

「澄乃の……」

「彼女の最期の言葉はこうだ。『あなたのことを待ってる……子供と一緒にあなたのことを待ってる……あの人にそう伝えて』

その言葉を発すると、信一の動きが静止した。

思考すら凍りついてしまったかのように硬直している。

しばらくすると、信一の体が小刻みに震え出した。

「嘘だ……嘘だっ! 澄乃がそんなこと言うわけがない。それに子どもっていったい何の話だっ! 嘘をつくんじゃねえよっ!」

「本当だ。彼女はおまえの子どもを妊娠していた」

「嘘をつくんじゃねえよっ! 澄乃が待っているはずがない! 俺が行くところは地獄なんだからな!」

「天国や地獄など、本当にあるかなんてわかりゃしない。これから寿命が尽きるまでの間、彼女と再会した時の言葉でも考えておくんだな

そう言い残すと、蒼井は病室を後にした。

廊下に出てからも、信一の咆哮が耳に響いていた。

「いったい何を言ったんだ?」

仲間の刑事からの質問に、蒼井は答える。

「嘘さ……」

蒼井が口にした言葉は、信一に報いを与えるための嘘だった。

澄乃の本当の遺言はこうだ。

『あなたと出会わなければよかった……そうしたら愛することもなかったのに……あの人にそう伝えて』

永遠の恐怖【side:信一】

(どうやら……おれは……もうすぐ死ぬみたいだ……)

真っ暗な視界のなかに、ぼんやりと澄乃の姿が浮かんでくる。

腕には赤ん坊が抱えられている。

澄乃は無言で信一を見つめているが、どんな表情をしているのかわからない。

澄乃と赤ん坊がだんだんと近づいてくる。

(怖い……そこに行くのが怖くてしかたない……死にたくなんかない……)

だが、どんなに逃げようとしてもどこからも光は差し込んでこない。

ゆっくりと澄乃に近づいていく。

(澄乃……そこに行くのが怖くてたまらない。そこに着いたら、おまえたちはどんな目でおれを迎えるつもりなんだ……)

榊信一、死亡。

穏やかな眠り【side:蒼井】

(どうやら、自分はもうすぐ死ぬようだ……)

薄れゆく意識の中、不思議と蒼井に恐れはなかった。

目の前で涙ながらに何かを訴えている瑞希と健吾の姿を、蒼井は穏やかな心で見つめる。

(自分なりに必死に生きてきて、人を愛して、大切な存在を遺すことができた。それでもう十分だ……)

視界がぼやけて、世界が暗闇に包まれていく。

ゆらゆらと漂うように『向こう側』に向かっていく。

蒼井は妻・由美子のことを心に思い浮かべた。

由美子、おれもこれからそっちに行くけど、そこはいったいどんな場所なんだ?

そこには天国や地獄があるのか?

おまえのまわりには仲間がいるのか? それともひとりぼっちなのか?

そこにはこっちの世界にあるような争いがあるのか?

傷つけたり、傷つけられたり、そんな苦しみや悲しみが存在するのか?

何も分からないから少し戸惑ってるだけさ。

だけど、そこがどんな世界であってもかまわない。

由美子……そこに着いたらまっさきにおまえを捜しにいくよ……。

<完>

蒼井が誰よりも犯人逮捕に執着していたのは、亡き妻のためでした。

由美子の心に傷を負わせた未逮捕の犯罪者をつかまえるため、また由美子のような犠牲者を出さないため、蒼井は末期がんを患っても刑事であり続けたんですね。

由美子の死に目よりも事件を優先させたのは、由美子がそれを望んでいると思ったから。

そのことを知った瑞希は父親と和解。

ラストではわだかまりなく父の最期を悲しんでいました。

感想

『死命』はいわゆる普通のミステリー小説ではありませんでした。

最初から犯人はわかっていましたし、犯行の瞬間も犯人目線から描かれているので「誰がどうやって殺したのか!?」という謎はなし。

終盤まで隠されていた『信一の失われた記憶(=本当の犯行動機)』は衝撃的な内容でしたが、「なるほど、だから信一は……」と納得できるものであり、ミステリーの謎解きにつきもののどんでん返し的な驚きはありませんでした。

誤解を恐れずにいえば瞬間的な盛り上がりに欠ける小説と言ってもいいでしょう。

しかし、ではこの文庫本で500ページもある『死命』が面白くなかったのかといえば、そうではありません。

末期がんでまともに逃げることもできない犯人と、同じく末期がんでまともに追うことさえできない刑事。

信一と蒼井の攻防には派手さこそありませんでしたが、その代わりにじりじりとした手に汗握るような緊張感がありました。

信一・蒼井・澄乃・矢部。

4人の視点が交互に入れ替わる群像劇的な構成も面白く、誰を主人公に据えるかでまったく違う読み味の物語になります。

私の素直な感想としては、前半は信一が物語の主人公のように思われたのですが、結末では蒼井が主人公であるように思われました。

信一が主人公の物語はミステリー、あるいはサスペンス。

蒼井が主人公の物語はヒューマンドラマ。

同じ作品の中にこれらが違和感なく同居しているというのは、あらためて考えるとすごいことですよね。

あと、これは作品のテーマにも関わることですが『信一と蒼井の対比』も実に鮮やかで見事でした。

信一と蒼井の対比

小説のラスト一行。

『由美子……そこに着いたらまっさきにおまえを捜しにいくよ……』

この終わり方にはしびれました!

なぜなら、信一との見事な対比になっていたからです。

物語の途中までは、二人の対比はこのような感じでした。

信一:欲望に忠実に生きられたので未練はない

蒼井:死ぬのが怖くて仕方がない

信一が勝者で蒼井が敗者、という構図だったんですね。

それが結末では逆転して

信一:あの世で澄乃に会うのが恐ろしくてたまらない

蒼井;あの世で由美子と再会したいと思っている

信一が敗者で蒼井が勝者、という構図になっています。

一言でいえば『勧善懲悪』なんですが、この対比にはもっと深いテーマが込められているような気がします。

人生の使命を『復讐』に定めた信一。

人生の使命を『刑事に殉ずること』に定めた蒼井。

2人とも使命を見出すきっかけは女性を愛したことであり、同じように最愛の人を亡くした境遇でありながら、真逆の方針を取り、真逆の結末を迎えた。

おそらく信一は紙一重で蒼井になれたはずなんです。

でも、あとちょっとのところで自分の心に素直になれなくて、勇気を出して心を開けなかったばっかりに、蒼井になれなかった。

小説の結末にたどり着いたとき、私はゾクッと鳥肌が立ったのを覚えています。

それは信一と蒼井の対比があまりに鮮やかだったからと思っていましたが、もしかしたら「紙一重の差がこうも人生の明暗をわけるのか」という驚きであり恐怖だったのかもしれません。

タイトルの意味とテーマ

『死命』という言葉の辞書的な意味は次のとおり。

1.死ぬべきいのち。
2.死ぬか生きるか。死ぬか生きるかの急所。「死命を決する」

それに対して小説「死命」のタイトルは「使命」をかけ言葉にしているものと思われます。

ただ、なんだかそれだけじゃない気もしますね。

私はこの小説を読んで『メメントモリ』という言葉を思い出しました。

解釈にもよりますが、ざっくりいうと

人間、いつ死ぬか分からない(だから、今を一生懸命生きよう)

みたいな意味ですね。

がん宣告を受けたことで、信一と蒼井は死を意識すると同時に「残された時間をどう生きるか」という選択を迫られました。

そこで2人が選んだのは『自分のために生きる道(信一)』と『他人のために生きる道(蒼井)』だったと区別することができるでしょう。

そして、あの結末です。

私はここに作者のメッセージが込められているように思います。

「利他的に生きよ」というとちょっと宗教チックですが、「自分のことばっかり考えててもろくなことにはならないよ」くらいまで噛み砕いて読み解けば納得しやすいですね。

もし信一が澄乃に自分の欲望を正直に告白してトラウマと正面から向き合っていれば、結末はまた変わっていたのではないでしょうか。

『人の振り見て我が振り直せ』ではないですが、人生の教訓にもなる一冊でした。

まとめ

今回は薬丸岳「死命」のあらすじネタバレ・感想をお届けしました!

最後に物語のポイントをおさらいしておきましょう。

あらすじまとめ
  • 最後は蒼井が信一を逮捕
  • 澄乃は事故で、蒼井と信一は病気で死亡
  • 穏やかな最期を迎えた蒼井に対し、信一は孤独と恐怖の中で息絶えた

同じ末期がん患者でありながら対照的な生き方を選択した蒼井と信一。

その結果、2人はくっきりと明暗分かれた最期を迎えました。

途中までは信一を中心としたクライムサスペンスっぽかったのですが、終わってみると蒼井中心のヒューマンドラマとして記憶に残る、一風変わった作品でした。

タイトルや文庫本の表紙からの印象は「うわぁ……堅くて重くて暗い話なのかな?」というものでしたが、実際に読んでみるとかなりエンタメ寄りでしたね。

意外と読みやすい小説なので、ドラマを見て興味を持たれた方には原作の方もおススメです。

ドラマ化について

「死命」はドラマ化が決まっています!

連ドラではなく単発のスペシャルドラマなのですが、主演(蒼井凌役)は「おっさんずラブ」で一躍お茶の間の人気を博した吉田鋼太郎さん!(いや、もともと有名俳優さんなんですけどね笑)

そして、もうひとりの主役ともいえる榊信一を演じるのはコメディの印象が強い賀来賢人さん!

今回はお二人ともシリアスな役どころなので、どんな演技が見られるのか楽しみですね!

ドラマ「死命~刑事のタイムリミット~」は5月19日(日)夜9:00から放送です!

ぱんだ
ぱんだ
2時間ドラマだよ!

薬丸岳さんの他の小説

薬丸岳さんの小説は『罪』をテーマにしたものが多いですね。

どれも考えさせられる深い作品ばかりです。

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