複雑で緻密な伏線の回収、大胆なトリックが明かされる衝撃の結末!
中村文則「去年の冬、きみと別れ」はとんでもない傑作です。
今回は小説「去年の冬、きみと別れ」の謎をわかりやすくネタバレ解説していきたいと思います!
Contents
あらすじ
ライターの「僕」が現在取り掛かっている仕事は、とある犯罪者について本を書くこと。
2人の女性を燃やして死刑宣告を受けたその犯罪者の名前は、木原坂雄大という。
木原坂は有名な写真家であり、被害者である吉本亜希子と小林百合子は写真のモデルだった。
『なぜ、木原坂は2人のモデルを焼いたのか?』
「僕」はその真相を探るため、木原坂はもちろん、その姉である朱里、友人だった加谷、親交のあった天才人形師・鈴木などを取材していく。
確かに、木原坂は芸術性を追い求めるあまり行き過ぎた行動をとる可能性のある男だ。
しかし、だからといって人の命を奪うという一線を超える男だとは思えない…。
いったい、木原坂の身に何が起こったのだろうか?
取材を重ねれば重ねるほど謎が、そして闇が深まっていく。
そんな中「僕」は魔性の女である朱里に誘惑され、彼女の虜になっていく。
そしてついに「僕」が朱里を抱こうとしたその時、彼女は一枚の写真を見せてこう言ったのだった。
「助けてくれる?…殺してほしい人間がいるの」
謎の提示
ネタバレをより楽しむために、まずは物語の前半で「何が提示されたのか?」について簡単に押さえておきましょう。
朱里は男をダメにする魔性の女
過去には朱里に捨てられたショックで命を捨てた者もいる。
オリジナルがこの世からいなくなることで、時に偽物は本物以上に輝くことがある。
鈴木からそんな話を聞いた木原坂は、自分の写真(=本物の模倣品)をより輝かせるために、本物(写真のモデル)を亡き者にしたのではないか?という説。
木原坂は目の前で燃えている2人の写真を撮っていた。
木原坂の事件について。
1度目の亜希子については当初「事故による火災」だと判断されていた。
しかし、2度目の百合子については日記や手紙などの証拠品が見つかり、木原坂の殺意が裏付けされた。
これにより、亜希子の件も事件だったと認定された。なお、亜希子は盲目だった。
「僕」はとある編集者から本の執筆を依頼されている。
木原坂には朱里が弁護士をつけている。
木原坂は精神的に錯乱しており「これは陰謀だ!」として容疑を否認しているが、その信憑性は薄いと言わざるを得ない。
木原坂姉弟の生い立ちについて。
木原坂姉弟は養護施設で育った。
母親は子供を捨てて家を出て行き、父親は行き過ぎた暴力を振るう男だった。
現在、姉弟には多額の遺産があり、それだけで生活していける状態にある。
【ここまでの情報による推理】
木原坂は劣悪な生育環境のせいで自分を「偽物」だと感じていた。
だからこそ「本物」を渇望していた。
鈴木から「オリジナルが消えることで模倣品の美しさが増す」という話を聞いた木原坂は、自らの写真を「本物以上」にするために、オリジナルであるモデルを亡き者にした。
だが、1度目の亜希子では失敗したため、再び百合子でそれを試そうとした。
その結果、逮捕された。
…しかし、本当にそうなのだろうか?
ネタバレ解説
結論から言えば、木原坂雄大は誰の命も奪っていません。
つまり、冤罪。
「去年の冬、きみと別れ」は実は復讐劇であり、木原坂は復讐者の罠にはまり重罪人に仕立て上げられたのです。
さらに加えるなら、復讐の首謀者は2人組であり、復讐の対象者も2人でした。
もう一人の復讐対象者は木原坂朱里。
実は、朱里はすでに復讐者の手によって亡き者にされています。
…では「僕」が会っている朱里とは何者なのか?
なぜ、その朱里は「僕」を誘惑してきたのか?
そもそも復讐者とは誰で、何の復讐なのか?
順を追って説明していきましょう。
始まりの事件
その男と亜希子は恋人同士だった。
亜希子は盲目だが活発であり、どんなことにも挑戦する明るい女性。
男はいつもそんな亜希子のことを心配していていたが、もともとの神経質でストーカー気質な性分が現れ、やがて気味が悪くなるほど亜希子の行動を監視し、制限するようになる。
当然、亜希子もそんな男のことを気味悪く思い、2人は破局した。
男は亜希子から身を引いたが、亜希子への妄執的な愛はいつまでも消えないまま。
そんな中、男は亜希子が焼けて亡くなったことを知る。
その火災は事故だったと断定されたが、男は独自に真相を調べるべく、朱里から話を聞くことにした。
ところが、話しているうちに男はすぐに朱里に魅了されてしまい、朱里を抱くことになる。
そして、事が終わった後、男は残酷な真実を知ることになった。
朱里「…いいことを教えてあげる。あの女…、吉本亜希子を誘拐したのは私なの。私が車でさらったのよ。弟に頼まれて。あなたは今、自分の恋人を陥れた女と寝たのよ。ご丁寧に終わったあと髪まで撫でながら!」
男「…なら、亜希子は…」
朱里「ん?いいえ、弟に人の命は奪えない。でも事故があって、ラッキーだと思って写真を撮ったんですって。でも失敗したらしいわ」
火災の原因は、本当に事故だった。
朱里が亜希子を誘拐し、木原坂が監禁した。そして事故が起こった。
木原坂はまだ助けられる亜希子を目の前にして、ただ写真を撮っていたのだという。
…許せない。
亜希子を助けなかった木原坂も、恋人の仇と寝させるという邪悪な遊びを楽しんでいた朱里も!
男は、同じく朱里を憎んでいる弁護士と手を組み、復讐計画を練った。
…あの姉弟に、復讐を!
復讐の全貌
まず、男と弁護士は1人の女を仲間に引き入れた。
女の名前は栗原百合子。多額の借金を返済するため体を売っている女だ。
百合子は体格や雰囲気が朱里に似ている。
男たちは百合子を写真のモデルとして木原坂に近づけた。
…結論から言えば、男たちの復讐の全貌は次の通りだ。
『木原坂の目の前で朱里を焼く』
木原坂が出先から帰ってくると、そこには燃えている女がいる。
状況的に木原坂はその女を百合子だと判断するだろう。
木原坂は夢中になって写真を撮るに違いない。
…だが、実はその女の正体は百合子の服を着せられた朱里だ!
朱里は眠らされているだけであり、木原坂が助けようと思えば命は助かっただろう。
だが、そうはならなかった!
木原坂は嬉々として燃え行く女の写真を撮った。その女が最愛の姉であるとも知らずに。
こうして木原坂朱里はこの世から消えた。
事故か?事件か?後日、当然ながら警察の調査が入った。
そして警察は断定する。
「これは殺人事件である。加害者は木原坂雄大。被害者は小林百合子」
なぜか?
復讐者たちが周到に準備をしていたからだ。
証拠として見つかった百合子の日記には「木原坂に監禁されていて命が危ない」と書かれてある(実際には監禁されていない)
遺体の身元確認に立ち会った百合子の夫は「妻の百合子で間違いない」と証言する。
なぜならその夫とは復讐を計画した男(小林)だからだ(このためだけに小林と百合子は籍を入れた)
復讐者たちは念入りに歯の治療痕まで偽装しており、誰も朱里と百合子の入れ替わりに気づかない。
こうして木原坂雄大は逮捕され、亜希子の件とあわせて「2人の命を奪った」犯罪者として扱われた。
※被害者が「2人」ということが重要。1人だけでは死刑にはならないため
裁判はことごとく木原坂が不利になるように進んだ。
なぜなら、朱里(本当は百合子)が木原坂につけた弁護士とは、復讐者の片割れなのだから。
こうして男(小林)は亜希子の仇を討つことに成功した。
弁護士は朱里への復讐を全うした。
百合子は朱里の身分を手に入れたことで借金地獄から抜け出し、朱里の財産を手に入れた。
復讐は完遂された。
「去年の冬、きみと別れ」
この小説のタイトル「去年の冬、きみと別れ」という一文は、文中においてこんな風に登場しています。
小林(僕はきみから別れを告げられても、まだきみと別れた気がしなかった。僕が本当にきみと別れてしまったのは、去年の冬だ。木原坂朱里を初めて抱いたあの夜。人間を辞め、化け物になろうと決意した夜。…きみの彼氏が、化け物であってはならない。そうだろう?去年の冬、きみと別れ、僕は化け物になることに決めた。僕は僕であることをやめてしまった。彼らに復讐するために、僕はそこで、壊れてしまったんだよ)
「きみ」というのはもちろん亜希子のことですね。
復讐というのは正義の行いではなく、外道に堕ちること。
小林は復讐を決意した夜、亜希子との別れを受け入れた…このタイトルは、実はそういう意味だったのです。
構造上のトリック
小説「去年の冬、きみと別れ」は少し特殊な構造をしています。
「僕」視点で話が進むだけでなく『いかに木原坂雄大が異常犯罪者だったか』という(偽の)証拠資料などが随所に散りばめられているんですね。
それは、なぜか?
実は小説「去年の冬、きみと別れ」の物語そのものが、「僕」が書いた小説だったからなんです。
そして、この小説は「木原坂雄大こそが揺るがぬ犯人である」ことを前提として書かれています。
なぜか?
「僕」に本の執筆を依頼した編集者が、そう望んだからです。
…もうお気づきかもしれませんが、「僕」に本を書くよう依頼した編集者の名前は小林。復讐の首謀者です。
小林は獄中の木原坂に小説という形で全ての真相を伝えることで、復讐を完成させようとしていたのです。
小説「去年の冬、きみと別れ」の最初には「M・Mへ そしてJ・Iに捧ぐ」という献辞が記されています。
普通なら献辞部分は物語の内容自体とは無関係なのですが、この小説においては、実はこの献辞すらもトリックの一部!
この2つのイニシャルは、実はそれぞれ木原坂雄大、吉本亜希子の本名のイニシャルなんです。
以下、読者を「あっ」と言わせたラストに近い部分の小林のセリフを一部抜粋。
小林「僕は『小説』をつくって、まず木原坂雄大に送ろうと思っている。資料が混ざる不思議なつくりの小説を。彼の死刑判決がちゃんと確定した後にね(この時点では最高裁での裁判が残っている)。彼は拘置所の中で読み、自分がしてしまった真実を知り気が狂うだろう」
小林「…編集者らしい復讐だろう?」
小林「それで、彼女にもこの本を捧げる。だから、物語の最初のページには彼らの名前を書くことになる。でも日本人には気恥ずかしいから、アルファベットにしよう。これは小説だから本文では仮名を用いたけど、そこには彼らの本名を。…まずはあのカメラマンへ、そして大切なきみに」
小林「全く同じ本を、片方には憎悪の表れとして、そして片方には愛情の表れとして…。M・Mへ そしてJ・Iに捧ぐ」
結末は?
要するに「僕」が取材していた朱里の正体は百合子だったわけです。
百合子は真相が明るみに出ることを恐れ、小林による小説の出版を危険視していました。
あらすじの最後「殺してほしい人間がいるの」とは、「小林を消してくれ」という意味。
この時点で「僕」は朱里と百合子の入れ替わり、そして復讐の全貌を知ることになります。
結末部分。
編集者である小林と、ライターである「僕」が対峙するシーン。
「僕」は百合子から手渡された毒入りのウイスキーを小林に飲ませます。
僕「…もう随分、あなたはこのウイスキーを飲んでしまいましたね。彼女から手渡されたものです。…もうすぐ効いてくるでしょう」
…ところが、実はこの発言はフェイク。
平凡な人間である「僕」は直前になって普通のウイスキーと入れ替えていました。
証拠を示すように、「僕」は自分のグラスからウイスキーを一口飲みます。
すると今度は…
小林「きみは律儀だから、警察に言う前にこうやって僕の元に必ず来るだろうと思った。でもね、そうなったらきみを始末してしまえばいいんだよ。原稿だけ書かせて…。きみもウイスキーに口をつけてしまったね。きみのグラスにはシアン化合物(青酸カリ)が塗られているのに」
…と言いつつ、実は小林も直前になって思いとどまっており、グラスには何も塗られていませんでした。
復讐の虚しさ、と形容すべき気持ちが小林の行動を止めていました。
結局、2人ともこれ以上手を汚すことなく生存。
小林「ところで…、この仕事を辞めて、きみは何をするつもりなんだ?」
僕「…雪絵(婚約者)と結婚します。タレントのゴーストライターの仕事をもらいました。…気づいてしまったんです。僕の欲望は、あなた達のように激しくない。ただ、安定を求め、時々破滅に憧れ、職業は何でもいいから少しだけ皆から羨ましがられる…それが僕の欲望です。とても小説家にはなれない」
小林「それがいい。きみは自分の生活を守っていけばいい。…世界が本質的に退屈であっても、その中で生き切る人間の姿は美しいのだから。…だけど、時々思い出してくれ。…人生を間違えてしまった我々のことを。本当は、そのように生きていきたかった我々のことを」
【結末のまとめ】
- 「僕」は百合子に溺れることなく、警察に復讐のことを話すでもなく、日常へと戻っていく。
- 「小説」は小林の手によって完成される。
- 木原坂雄大は事実上無罪であるにも関わらず、重罪人として命で罪を償うことになる。
※追記:映画「去年の冬、きみと別れ」観てきました!原作から大きく変わった設定も!
時系列まとめ
・小林が亜希子と別れる。
・亜希子が朱里に誘拐される。事故で火事が発生。木原坂に監禁されていた亜希子が亡くなる。木原坂は助けられたにも関わらず写真を撮っていた。
・小林、朱里を抱く(去年の冬)
・真実を知った小林、朱里に恨みを抱く弁護士と手を組み、復讐計画を練る。
・復讐開始。百合子を木原坂のもとに送り込む。
・木原坂の目の前で百合子に見せかけた朱里を焼く。木原坂は百合子が燃えていると思い込み、写真を撮る。朱里、亡くなる。
・小林達が偽造した証拠により、木原坂雄大が逮捕される。亜希子の件も事件だったと見直され、死刑判決を受ける。
・小林が「僕」に木原坂雄大についての本を書くように依頼する。
・朱里(のふりをしていた百合子)から教えられ、「僕」が真実を知る。
・「僕」と編集者である小林が対峙。お互いに相手を始末しようとしていたが、どちらも直前で思いとどまった。
・「僕」は日常へと帰っていく。復讐が明るみに出ることはなく、小林は捕まらない。
・木原坂雄大は事実上無実であるにも関わらず、命を持って罪を償う(未来)
【補足】木原坂雄大について
木原坂雄大は過去に『蝶』という作品で世間の注目を浴びたが、それ以降はスランプに陥っていた。
だから鈴木の「オリジナル(モデル)が消えれば、模倣(写真)はより美しくなる」という話を信じて、燃え行く2人の写真を撮った。
だが、どちらのケースも撮影は『失敗』
木原坂雄大はスランプを抜け出し、再び写真家として脚光を浴びたかったが、その夢は最後まで叶わなかった。
まとめと感想
今回は映画化もされた中村文則「去年の冬、きみと別れ」のネタバレ解説をお届けしました。
改めて、ネタバレポイントをおさらいすると…
・実は木原坂雄大は犯人ではなく事実上無罪(他に罪に問われるようなことはしていますが)
・木原坂雄大を罠にはめたのは木原坂姉弟に恨みを持つ編集者の小林と弁護士
・2人目の被害者である百合子は実は生きている。朱里と百合子は入れ替わっており「僕」が会う朱里の正体は百合子。なお、朱里は亡くなっている。
というところですかね。
私は前情報なしで小説を読んだのですが「前半で提示された木原坂雄大が犯人であることを示す証拠が、実は小林達が用意した偽物だった!」というトリックにまんまと騙されました。
もう完全に「木原坂雄大が犯人で間違いないでしょ。あとは動機がちょっとわからないだけで…」と思ってましたからね(笑)
だって、途中までは小林の「こ」の字も出てこないんですよ!
それが「あと残り30ページ」という段になって、いきなり続々と真実が明らかになっていくんです!
もう「えっ!そうなの!あっ、なるほどね!?」って感じで軽くパニックになりそうでしたよ!
それくらい「去年の冬、きみと別れ」のトリックはスゴイんです!
私の中では『今年読んだ衝撃的な本』トップ3には確実に入りますね。
しかも、この本の何がすごいかって、伏線がめちゃくちゃ細かいことなんですよ。
それらがすべて一滴残らず綺麗に回収されていく様子は、本当に「お見事!」という感じ。
わずか190ページくらいの薄い本だとは思えないほど濃密で中身が詰まっている作品でした。
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