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小説『兇人邸の殺人』あらすじネタバレ解説|結末に絶句【屍人荘の殺人シリーズ第三弾】

今村昌弘『兇人邸の殺人』を読みました!

※読み方は「きょうじんていのさつじん」

こちらは映画化もされた『屍人荘の殺人』シリーズの三作目。

結論からいえば、今回もめちゃくちゃおもしろくて大・大・大満足でした!

というわけで、今回は小説『兇人邸の殺人』の物語と魅力をネタバレ解説していきたいと思います!

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

これまでのシリーズ↓

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あらすじ

“廃墟テーマパーク”にそびえる「兇人邸」

班目機関の研究資料を探し求めるグループとともに、深夜その奇怪な屋敷に侵入した葉村譲と剣崎比留子を待ち構えていたのは、無慈悲な首切り殺人鬼だった。

逃げ惑う狂乱の一夜が明け、同行者が次々と首のない死体となって発見されるなか、比留子が行方不明に。

さまざまな思惑を抱えた生存者たちは、この迷路のような屋敷から脱出の道を選べない。

さらに、別の殺人鬼がいる可能性が浮上し……。

葉村は比留子を見つけ出し、ともに謎を解いて生き延びることができるのか!?

『屍人荘の殺人』の衝撃を凌駕するシリーズ第三弾。

(単行本カバーのあらすじより)


隻腕の巨人

頭には頭陀袋(ずだぶくろ)を被っていて、身長は2メートル以上。

言葉は通じず、銃弾にも怯まず、出会ったが最後、逃げることもできずに大鉈(おおなた)で首を切断されてしまう……。

今回、葉村くんたち一行はそんなバケモノが徘徊する館に閉じ込められてしまいます。

※ジェイソンとか洋画系の怪物なイメージですね

ぱんだ
ぱんだ
そんなのアリ!?

葉村くんたちは倫理観ゼロの研究をしていた《班目機関》を追っているわけなんですが、このバケモノもまた人体実験の産物であり、もともとは研究施設で育てられていた子どもだったのだといいます。

その研究施設は《謎の事故》で壊滅しているのですが、研究者だった不木という人物がこっそり連れ出していたのがバケモノ……作中では「隻腕の巨人」と呼ばれる存在です。

あらすじをふり返ると

奇怪な屋敷に侵入した葉村譲と剣崎比留子を待ち構えていたのは、無慈悲な首切り殺人鬼だった。

とありますが、この殺人鬼というのが「隻腕の巨人」のことですね。

葉村くんたちは今回、6人の傭兵と一緒に「兇人邸」に乗り込んだのですが、最初の一晩であっというまに3人が首だけの姿になってしまいました。

※プラス、案内役の青年と屋敷の主である不木も一日目で死亡します

極上のクローズドサークル

葉村君たちはまたしても館に閉じ込められるわけですが、その状況はちょっと特殊です。

というのも、物理的に館から脱出しようと思えば、実のところいつでも脱出できるんです。

ぱんだ
ぱんだ
じゃあ逃げればよくない?

いえいえ。もちろん話はそう簡単ではありません。

侵入に使った通用口は特殊な鍵でロックされていて、葉村くんたちが脱出するには館正面に備え付けられた跳ね橋を下ろす必要があります。

ただし、跳ね橋は一度下ろしてしまえば最後、再び跳ね上げることは不可能。

つまり、跳ね橋を下ろして脱出すると、同じルートから巨人も出てきてしまうんです。

館の外は営業中のテーマパーク。どれだけの犠牲が出るか見当もつきません。

こうなると葉村くんたちは自ら脱出しないことを選ばざるを得ないわけで、いわば心理的なクローズドサークルが完成します。

ぱんだ
ぱんだ
ふむふむ

加えてもう一点、葉村くんには脱出を回避するべき事情がありました。

というのも、一日目の夜に離れ離れになってしまった比留子が、巨人側の区画に一人取り残されていたからです。

ぱんだ
ぱんだ
えっ

 

状況の補足

兇人邸は地上一階、地下一階。さらに本館と別館から構成されています。

巨人は日光を嫌って昼間は別館から出てきません。

一方、葉村くんたち本館の人々は金属扉のある不木の私室に立てこもることで、夜を安全に過ごせます。

ところが、なんと比留子は一日目の夜にはぐれたあと、別館の一部屋に身を隠してしまいました。

どうやらそこは巨人の立ち寄らない部屋のようですが……。

比留子の部屋と不木の寝室は(鉄格子付きの)小窓を介して隣接しているため、葉村くんたちは比留子と会話することだけは可能です。

小説の巻頭には兇人邸の見取り図がついています。

ときどき見取り図に立ち戻って位置関係を確認しながら読み進めるのが、この手の館モノの醍醐味ですよね。頭の中に立体的な地図ができていくようで楽しかったです。


安楽椅子探偵

首狩りのバケモノという存在から洋画のパニックホラーみたいな雰囲気が漂う今作。

一方、ミステリとしては《安楽椅子探偵》がテーマになっています。

比留子は物語のほとんどを別館の一室で過ごすわけなのですが、葉村くんや他の登場人物たちから聞いた情報だけであらゆる謎を解き明かしてしまうんですね。

物語では巨人によるものと見せかけた殺人が発生するのですが、比留子は部屋から一歩も動くことなく真相を見抜いてしまいました。

『屍人荘の殺人』シリーズは本格ミステリであり、読者が謎を解くための手がかりはすべて伏線として事前に提示されています。

わたしはいつも謎解きに挑戦するのですが……これが本当に難しい!

それでいて探偵の推理を読むとちゃんと納得できてしまう(理不尽なトリックではない)ので、作者(と比留子)には尊敬の念を抱くばかりです。

登場人物

今作の登場人物はこんな感じ↓

当然ながら、この中に犯人がいます。

勘で当ててみよう!

※ミステリ慣れしている人なら《あの人》に注目できるかも……

名前備考
葉村譲主人公 探偵助手
剣崎比留子探偵 殺人事件に遭遇してしまう特異体質を持つ
成島陶次不木の研究資料を狙う社長
裏井成島の秘書
ボス成島が雇った傭兵
アウル傭兵
マリア傭兵
不木玄助元・班目機関の研究者 何者かに殺される
雑賀務兇人邸の使用人 実は指名手配犯
阿波根令実兇人邸の使用人
剛力京フリーライター

※一日目の夜に脱落した傭兵3人と案内役は割愛しています。

※一応補足しておくと、女性は比留子・マリア・剛力・阿波根の4人です。


ネタバレ解説

前置きが長くなりましたが、ここからは物語の核心に迫っていこうと思います。

いきなりですが、一日目の夜、巨人による《人狩り》を隠れ蓑にして不木玄助を殺した犯人はフリーライターの剛力京(ごうりきみやこ)です。

ぱんだ
ぱんだ
えっ

これは読者目線にも明らかで、謎というほどのものではありません。

物語の中盤では比留子もあっさりと口にしています。

比留子「不木さんを殺したのは剛力さん、あなたでしょう」

動機は復讐。

今作では葉村譲視点だけではなく、もう一人の主人公として剛力京視点のパートが挟まれているのですが、どうやら大切な家族を不木に殺されたから……という事情のようです。

今のところ、不木殺害の犯人に気づいているのは比留子だけ。

比留子は秘密を黙っているという条件のもと、剛力に拒絶不可能な取引(脅し)を持ちかけます。

比留子「剛力さんには、私の代わりに葉村君を守ってもらいます」

この状況下、比留子の目的は探偵として犯人を突き止めたり、事件を解決したりすることではありません。

自身と、それ以上に葉村譲の命を守ること。

比留子はそのために推理力を働かせ、必要とあれば犯人を見逃すことすら厭いません。

※一方の葉村くんはそんな比留子の心配を「自分が無力なせいで……」と歯がゆく思ってしまうのですが……

ともあれ、こうして剛力は葉村譲のボディーガードとして以後行動するようになります。

比留子が剛力のトリックを見破った方法がおもしろかったので、ちょっとだけ紹介させてください。

鍵になったのはアレキサンドライト。

昼には緑色、夜には赤色に見えるというこの宝石の特徴によって、比留子は剛力の発言の矛盾を突き、犯人であることを認めさせました。

新たな事件

狂乱の一夜が明け、兇人邸での二日目。

一行は脱出のために《ある計画》を実行に移します。

それは巨人のいる別館に忍び込み、通用口の扉を開くことのできる鍵をゲットしようというものです。

しかし、この計画はあっさりと失敗。

傲慢な権力者を絵に描いたようなキャラだった成島が巨人に殺されました。

とはいえ、それは比較的どうでもいいことでして。

ぱんだ
ぱんだ

問題は巨人じゃない何者かによって使用人の雑賀が殺されていたことです。

状況からして、今度の犯行は剛力の仕業ではありません。

容疑者はボス・マリア・裏井の三人。

しかし、三人には全員「いや、あの人に犯行は不可能だった」と説明できるだけの証拠が揃っていて、まったく絞り込むことができません。

ただし、犯人についてわかっていることもあります。

雑賀を殺害した犯人は事故で壊滅した研究施設の《生き残り》……巨人と同じ元・被験者の子どもだったということです。

ぱんだ
ぱんだ
どゆこと!?


回想編について

『兇人邸の殺人』では物語の途中にちょくちょく過去の回想がはさまれています。

舞台は不木が在籍していた班目機関の研究施設。

ケイという被験者の少女の目線で進む物語を読んでいくと、最後には「研究施設で起こった事故」の真相がわかるようになっています。

ケイは小学6年生~中学1年生くらいの年頃で、他の子どもたちと一緒に集団生活しています。

被験者といっても暗い影はなく、ふだんは学校に通う子どもたちと同じように授業を受けたりしていて、ケイは子どもたちや研究の主導者である羽田先生のことを家族のように思っています。

ぱんだ
ぱんだ
羽田?

はい。実は施設には二人の研究者がいたのですが、子どもたちを研究対象にしていたのは不木ではなく羽田という女性の研究者の方です。

不木は十分な研究成果を出せず、猿を対象にした実験しか許されていなかったんです。

ぱんだ
ぱんだ
巨人はもともと子どもだったのよね?

はい。だから「巨人はどの子どもだったのか?」という謎もかな~り重要になります。

回想編にはケイの他に二人の男の子が登場します。

名前はジョウジとコウタ。

やがてケイは「被験者としての成績が悪いコウタが、不木の怪しげな実験に協力しようとしているのではないか?」と疑いを持つようになり、ジョウジとその動向を見張り始めるのですが……。

※子どもたちは母親代わりである羽田に好意的であり、実験の成功に寄与したいと思っているんですね

ぱんだ
ぱんだ
じゃあ、巨人はコウタ?

この時点ではその線が一番怪しいですよね。

さて、ここでちょっと思い出してみましょう。

剛力は家族の仇として不木を殺していました。そして剛力の名前は……?

ぱんだ
ぱんだ
京!

読みはミヤコですが、ケイとも読める字ですよね。

巨人にさせられてしまったコウタの仇として剛力が不木を殺したのだと解釈すれば、筋は通ります。

ぱんだ
ぱんだ
ん? でも……

はい。この仮説にはひとつの矛盾が生じます。

生き残りが剛力(=ケイ?)だとして、彼女には雑賀殺しのアリバイがあるんです。

ただ、そもそも最初からケイには雑賀を殺す理由もないわけで……

  • 雑賀を殺害したのは生き残りとは無関係の人間だった?
  • あるいは剛力がアリバイを崩すようなトリックを使った?

といった具合で、考えるほどに謎が深まっていくようです。

犯人がなぜ雑賀を殺したのかという動機がまったく見えてこないのも大きなポイントですね。

剛力京の正体

すごい勢いで手のひらをかえすようですが、まさか今村昌弘先生が「京だから実はケイ」だなんて安直な罠を仕掛けてくるはずがありません。

当然のようにミスリードです。

「兇人邸」では巨人へのイケニエとしてテーマパークの従業員を差し出していたのですが、その犠牲者のひとりは剛力京の兄でした。

名前は剛力智。

剛力は兄の安否を確認するため、そして万が一の時は兄の仇を討つために「兇人邸」にやってきました。

というわけで、剛力京は施設の《生き残り》ではありません。

そして、この話にはもう一段階、隠されていた秘密がありまして。

ぱんだ
ぱんだ
秘密?

はい。実は剛力京は剛力京であって剛力京ではなかったんです。

ぱんだ
ぱんだ
???

もう少しわかりやすく説明しますね。

剛力京の本当の名前は前田圭子といいます。

圭子は剛力智の中学時代の同級生であり、また彼の恋人でもありました。

それがなんで智の妹を名乗っていたのかというと……

智「妹の戸籍、いるか?」

20歳で再会した当時、圭子は最悪な父親のせいで人生をめちゃくちゃにされていて、一方で本物の剛力京は失踪していました。

智は「妹はもう生きてはいないだろう」と考えていて、それなら圭子を別人にすることで助けてやろうとしたんですね。

以後、圭子は「剛力京」として生きていて、免許証の写真に写っているのも圭子の顔です。

作中では

  • 剛力(=圭子)は30歳くらいに見える
  • しかし、免許証の年齢では23歳

という伏線が提示されていました。

ぱんだ
ぱんだ
いや、気づけないって

剛力京が「兇人邸」にやってきた本当の目的は、智の遺体の状態を確認するためでした。

遺体の状況によっては、智の身元を確かめるためのDNA鑑定によって、逆に圭子が剛力京ではないと明らかになってしまう恐れがあったためです。

詳しくは割愛しますが、結果的にその危険性はないと判断したため、剛力は「兄の智を探しに来た」という事情を打ち明けました。

そして、そのタイミングの不自然さから比留子に↑のような真実を見抜かれることになります。

ここで比留子が嘘を見破ったポイントを少しだけご紹介させてください。

鍵になったのは剛力兄弟がおそろいで持っていた星座のキーホルダー。

剛力(=圭子)が身につけていたキーホルダーの星座は、免許証の誕生日から導き出される星座とは異なるものでした。

つまり、圭子は本当の誕生日に対応する星座のキーホルダーを選んでいたんです。

その情報は読者にもちゃんと提示されていたのですが……無念……(ぜんぜん気づきませんでした)


真犯人と真相

※ここからは特大ネタバレの連続です。ご注意ください※

 

 

さて、雑賀を殺害した真犯人は裏井です。

彼こそが施設の《生き残り》であり、本名は裏井公太(うらいこうた)といいます。

※人物紹介に名字だけの人がいたら怪しもう、という教訓ですね

ぱんだ
ぱんだ
あっ!

はい。コウタといえば回想に出てきたケイの友人の少年ですね。

あの時点ではコウタこそが巨人の正体だとミスリードされていましたが、真相は違います。

意外すぎることに、巨人の正体はケイだったのです。

ぱんだ
ぱんだ
ええ!?

実のところ、能力の低さに負い目を感じて不木の研究に協力しようとしていたのはコウタではなくジョウジでした。

ケイはその真相に気づいたことから不木に未完成の薬を注射されてしまい、巨人となります。

そしてケイは研究施設を破壊し尽くし、不木によって「兇人邸」へと隠されました。

ひっそりと生き延びていた裏井は、優しかったケイという家族を探すために成島の秘書となり、すっかりバケモノと化したケイと悲劇的な再会を果たしたわけですね。

裏井「ケイを探し、不木を裁く。それが私の生きる目的でした」

 

驚きの殺害動機

裏井が雑賀を手にかけた理由は、あまりにも予想外なものでした。

葉村「あなたは殺人の罪を背負いたいがために、雑賀さんを殺したんですか?」

ケイは研究所で、そして兇人邸で、数えきれないほどの命を奪ってしまいました。

そんなケイと同じ目線に立つには、自らも殺人者になる必要があると裏井は考えたんですね。

当初は憎き不木の命を奪うつもりでしたが、そちらは剛力に先を越されてしまいました。

裏井は仕方なく、指名手配犯である雑賀にターゲットを変更します。

とはいえ、問答無用で殺したわけではありません。

裏井はわざと雑賀が自分を襲うように仕向け、それを返り討ちにすることで、いわば正当防衛として雑賀を死に至らしめたのです。

雑賀はナイフを手に襲ってきましたが、超人研究によって(巨人には及ばないまでも)人間を越えた能力を備えている裏井にとっては赤子の手をひねるように簡単な作業でした。

ぱんだ
ぱんだ
巨人……ケイのためにそこまで……

 

巨人の真実

裏井は人生をかけてケイを探しだそうとしていました。

それは彼にとってケイが家族であり、初恋の相手であるから……というのも理由なんですが、実はそれだけではありません。

話はケイが研究施設を壊滅させた頃にまでさかのぼります。

不木の注射によって暴れ出したケイは、自我を失って暴走していた……わけではなかったんです。

ぱんだ
ぱんだ
というと?

不木の注射後も、ケイにはちゃんと意識がありました。

ただし、もちろん異状は引き起こされていたわけで……。

平たくいうと、ケイの目線ではすべての人間が(不木の研究対象だった)猿のバケモノに見えるようになっていたんです。

不木に後頭部を殴られ、気絶しているうちに注射を打たれ、目が覚めたケイの目がとらえたのはそこかしこに跋扈する猿のバケモノたちでした。

まるで研究施設が猿のバケモノに乗っ取られてしまったかのような光景です。

ケイは子どもとはいえ、研究によって大人でも叶わないほどの身体能力を有していました。

ケイは施設の仲間たち、そして研究施設の大人たちを守るために大量発生した猿のバケモノと闘います。

不木の研究によって改造された猿は異常な生命力を宿しているため、確実に無力化するには首を切断するしかありません。

ケイはみんなを守ろうとして、皮肉にも守るべきみんなの首を次々に狩っていったのです。

目が覚めたケイが最初に切断した首は、一番近くにいたジョウジのものでした……。

ぱんだ
ぱんだ
そんな……

そして現在。事故から数十年経過した今でも、ケイは同じ日の悪夢に囚われ続けています。

巨人が人間の首を狩るのは、ケイが施設のみんなを守ろうとしての行動だったのです。

葉村(こんな報われない話があるか!)

葉村くんの心の叫びももっともだと思います。

裏井はあの頃の過ちをずっと悔いていました。

『羽田先生の役に立ちたいのに、自分は能力が低くて役に立たない……』

ジョウジと同じ悩みを抱えていたコウタが、もっと彼と、そしてケイと素直に話し合えていれば……結末は変わっていたかもしれません。

裏井「やあ、久しぶり。僕だ、コウタだ」

正体を明かしてみても、巨人に動揺はありませんでした。

彼女にとってすべての人間は猿のバケモノで、その口から発せられる言葉はすべて耳障りな鳴き声でしかないのです。

兇人邸、3日目。

裏井公太は巨人に首を斬られて人生を終えました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

本当は、殺される前に彼女を力の限り抱きしめて謝りたかった。

あの夜のことを。これまで待たせてしまったことを。

そしてお礼を言いたかった。

僕たち家族のために戦い続けてくれてありがとう。

(中略)

鐘の音が鳴り響く。

少し遅れてケイの振るった大鉈が、五十五年にわたる僕の生を絶った。

おやすみ、みんな。そして母さん。

先に行って待ってるよ、ケイ。

裏井は研究の効果によって実年齢よりもはるかに若く見えていて、外見年齢から《生き残り》だと推測するのは難しくなっていました。

あと、補足としてもうひとつだけ。

兇人邸は研究施設を模した構造になっていました。

そして比留子の部屋に巨人が入らなかったのは、そこが女子が入ってはいけない男子用の区画だったからです。

ケイが真面目ないい子だったからこそ、比留子は無事だったんですね。


結末

結局、生き残った兇人邸の人々は館正面の跳ね橋を下ろして脱出します。

ぱんだ
ぱんだ
えっ

はい。そんなことをすれば巨人が外に出てきて大惨事になってしまうわけで、だからこそ彼らは館に留まっていたわけですよね。

ただ、三日目にして使用人の阿波根が唯一の安全圏である不木の私室を独り占めにしやがりまして。

夜になれば巨人に首を狩られることが明らかである以上、彼らとしても苦渋の選択で脱出するしかなかったんです。

時刻はどんどん夕刻に近づき、日没が迫ってきます。

もうダメだ……と誰もが諦めかけた、そのとき。

首を狩られる直前の裏井が鐘楼の鐘を鳴らし、それによってすべてが丸く収まりました。

ぱんだ
ぱんだ
どゆこと!?

順を追って説明しましょう。

実のところ、跳ね橋を下ろした状態でも、巨人を兇人邸に閉じ込める方法はあります。

ただし、それには巨人の住処である別館最上部の鐘楼(に転がっている首なしの遺体)から特殊な鍵を持ってくる必要がありました。

鍵をとりに行こうとすれば巨人に狩られてしまうので、これまでは事実上、鍵を取り戻すことは不可能だったのです。

しかし、裏井が鐘を鳴らしたことで状況は一変します。

鐘の音を聞いた瞬間、比留子はハッと気づきました。

誰かが「鍵を取り戻すための奥の手」を実行したのだと。

ぱんだ
ぱんだ
奥の手?

詳しくは省略しますが、巨人には狩った首を《首塚》と呼ばれる場所まで運び、そこに転がしておくという習性があります。

裏井は鍵を噛んだ首を首塚まで巨人に運ばせることで、間接的に比留子に鍵を届けたのです。

比留子は葉村くんと協力して間一髪、脱出と巨人の閉じ込めに成功したのでした。

<おわり>

 

ちょっとだけ補足

ネタバレ解説と言いつつ、ミステリの肝である具体的なトリックや謎解きについて、この記事ではほとんど触れていません。

なぜなら、そのためにはみなさんに館の構造をイチからジュウまでつぶさに説明しなければならなかったからです。

しかし、それでは書いてるほうも読んでる方もしんどい……。

  • 裏井はどうやって雑賀を殺したのか?
  • ラスト、比留子はどうやって巨人を出し抜いて脱出したのか?

気になった方はぜひ小説を読んでみてください。

たぶんこの記事を読んだうえでも比留子の謎解きまでトリックはわからないと思いますし、あまりに鮮やかな伏線回収にうっとりすること間違いなしです。

 


感想

まぁ~~~おもしろい!!

シリーズものって条件反射で買って「一作目がピークだったな……」ってなることもしばしばですが、『屍人荘』シリーズは冗談抜きでどんどんおもしろくなっててすごすぎます。

三冊目にして確信しました。

わたしは今村昌弘さんの大ファンです。今後の単行本全部買います。

 

ミステリとしての誠実さ

今村昌弘さんがどこが好きって、謎解きのための材料提示が公平で、本当にフェアな条件で推理に挑戦させてくれるところです。

探偵の謎解きを聞いて

「え、それはズルじゃない?」

と思わされるか

「なるほど! その手があったか!」

と思わされるかで、ミステリ小説の評価には天と地ほどの差が生まれますよね。

その点、『屍人荘』シリーズは一貫して謎解きが納得できるロジックで組まれていて、気持ちよく挑戦失敗することができます。

わたしの話になりますが、今作における「雑賀の首を切った犯人の謎」についていえば、作中で提示される前に容疑者をボス・マリア・裏井の三人に絞り込むことはできました。

ただ、どこからどう考えてもそこから先にうんともすんとも進まないんです。

「中華包丁で首を切った」という思い込みを崩せなかったのが敗因でした。

この「あと一歩まで迫れるけど、最後の1ピースがハマらない」みたいな感覚って、ある意味ではミステリ小説を一番楽しめている状態なんじゃないかと思います。

比留子の推理を読んだときは悔しさよりも「そう考えればよかったのか!」という心地よさが上回り、たいへん満足しました。

 

ストーリーにも抜かりなし

『兇人邸の殺人』のストーリーには本当にグッときました。

まさかラストであんな切ない気持ちにさせられるとは……!

  • 巨人の正体がケイだとわかった瞬間
  • ケイが幻覚のために戦っていると判明した場面

ミステリではありえないほどの切なさにゾワゾワして、心がぐちゃぐちゃになりました。

今作のあらすじを読んでまさかこんな読み味になるとは、いったい誰が想像できたでしょう。

「あれ、これミステリ要素を排除しても普通に泣ける話なのでは?」と心底思いました。

本格ミステリにこれだけのドラマを盛り込めるなんて、ほんとうにすごいですよね。

映画化……お願いだから映画化してください……。

 

シリーズものとしての魅力

正直、『兇人邸の殺人』はシリーズ初見でも120%楽しめる作品だと思います。

ただ、そのうえでシリーズならではの要素がのっかってくると、さらに楽しくなっちゃうんです。

今作で言えば葉村くんがまだちゃんと明智さんのことを引きづってくれているのもよかったですし、二作目の予言研究とのつながりが描かれていたのもよかったですよね。

それに、なんといっても欠かせない魅力は比留子と葉村くんとの関係ですよ!

「ホームズとワトソン」という表現では決して収まり切れない、お互いの葛藤であったり信念であったりが、もどかしく交錯し、そして最後にはまたひとつ絆が深まり……。

すっかりドハマりしているわたしなんかは、もうミステリ要素ゼロの二人のスピンオフとかでも嬉々として買っちゃいますもんね。

※そんなものはない

班目機関を追うという大目標にも少しづつ近づいてきて、今後のシリーズが楽しみで仕方がありません。

「どうしてここに。重元さん」

ラスト一行の引きがまた最高でしたね。

※重元は『屍人荘の殺人』に登場した映研部員

ぱんだ
ぱんだ
いいねしてね!

 


まとめ

今回は今村昌弘『兇人邸の殺人』のネタバレ解説(と感想)をお届けしました!

最後なので短くまとめますが、令和に読むべき上質な本格ミステリシリーズとはコレのことです。

今年の年末の各ミステリランキングにもきっとランクインしていることでしょう。

上質な読書時間を味わいたい方、心からおすすめです。

ぜひ実際にお手に取ってみて、巻頭の見取り図を眺め、この記事ではバッサリ省略されていたトリックの謎解きに挑戦してみてください。

楽しいですよー!

ぱんだ
ぱんだ
またね!


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POSTED COMMENT

  1. ゴン より:

    ブログ再開されて良かったです。
    早速拝見しました。
    これからも楽しみにしていますので、
    ムリしないで下さいね!

    • わかたけ より:

      >ゴンさん

      おかげさまで戻ってまいりました!
      どうぞ今後ともゆるりとおつきあいくださいませ(‘ω’)ノ

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